黒崎家の正月

「明けましておめでとうございま〜〜す!」
「おお!!おめでとう!!娘たちよ!!そしておめでとう!!母さん!!」

一月一日、元旦。黒崎家では元気な賀正の挨拶が木霊する。
一家の主人、一心はとりわけ何時もよりも余計にテンション高く賀正の挨拶を子供達と亡き妻の遺影に投げかける。

遺影と言っても、特大ポスター型の大きさだ。遺影などという暗さの欠片も感じさせぬ笑顔で、遺影の亡き妻は笑っている。
ちなみにこの遺影、年ごとに替わる。
しめ縄を飾ると同時に、遺影もまた新しい写真に替えられるというのが、恒例だ。

そして、年初めのハイテンションに取り残されている者が一名・・。
「・・・おっざーす。」←おめでとうございます、の略。
この家の長男、一護である。

黒崎一護、15歳。
現在、中学3年生。第二次成長期真っ只中で思春期ド真ん中の複雑な年頃だ。
親の言動に、冷静に疑問と批判をするようになる年頃でもある。

「なんだ、一護!年の初めの挨拶はもっと元気良くやるものだぞ!やり直し!!」
「・・イヤ・・無駄にテンション高くても仕方ねえだろ。
ていうか、なんだよそのトレーナー。またくだらねえモン、作りやがって。」
「おお!これか!やはり一年の初めだからな!
正月らしいものを着るべきだろう!」

一心のファッションセンスは、奇天烈系だ。
ド派手なシャツも、一心のファッションを語るに外す事はできないが、もう一つの特徴は文字入りの服だ。
本日は、白いトレーナーに「謹賀新年」と書かれたどう見ても年賀状仕様のデザインが施されている。
絵柄はその年の干支だ。これも一心の恒例である。

そして、家族4人でおせちと雑煮を食べるのも恒例となっていた。
母親の居ない、黒崎家では流石におせちは買ったものだ。
個人病院を開く一心は、年末年始でも通う患者の急変で急遽診療することもあるため、大掃除を家族で行うのがやっとだ。おせちまでは手は回らない。

御とそで最初は祝う。
未成年は飲酒はご法度だが、このときだけは一心は一護の猪口に酒を入れる。
どうやら一護はイケる口のようだが、「お代わり」と出しても、「後はお前が二十歳になってからだ。」と、流石に一心も注がない。

そして通常はどこかしら厳かな雰囲気で、おせちを食べるものだが、そこは黒崎家だ。
戦いの口火を切るのは決まって家長の一心だった。
「・・よし。今年のラッキーおせちは、黒豆だ。
多く取った方が、この年ラッキーになれるぞ?」
「ええ〜〜?黒豆〜〜?」と遊子が可愛らしく頬を膨らませて文句を言う。
「豆は、箸で掴み難いんだよな。」と言いつつ、勝つ気マンマンなのは夏梨だ。
「いい加減、止めねえ?コレ。」と冷めた様子の一護を挑発するのも家長の務めらしい。

「フフフ・・やる前から負けるつもりか?
まあ、まだまだお前ごときがこの父に勝つなど、100年早いがな!」
「なんだと?このヒゲオヤジ!誰がてめえに負けるかよ!」
「では、勝負だ!!一護!!」
「ほえ面かかせてやる!」

そして、箸折れ、黒豆が宙を飛ぶ、戦い初めが終焉を迎えると、一心からお年玉が渡される。
何故か先に渡されるのは遊子や夏梨だ。
「わあ!ありがとう!お父さん!」
「サンキュ、オヤジ。」

「これが、一護のだ。」
妹たちより明らかにポチ袋が膨らんでいるのを見て、妹たちから抗議が起こった。
「あ!一にいのだけ分厚い!!」
「おにいちゃん、ずるい〜〜!」

「まあまあ。お前たち。一応とは言え一護はお兄ちゃんだからな。ホレ、一護」

「ああ、悪ィ。」
「幾ら入ってるの?一にい。」
珍しく礼を言った一護。例年とは全く違う分厚さに、驚きつつも中身を覗いてみると・・・。


『一心真心肩たたき券×10枚(何故か肩たたき券なのに足ツボコースが2枚入っている)』←お約束道理に手作り
『一心お悩み相談券×5枚(「誰にも聞けない<思春期>な悩み受付ます」の文字入り)』

注)お年玉の中身

「・・・・・・・・・・・・」←絶句

「お・・おにいちゃん・・。ププ。」
「ブヒャヒャヒャ〜〜!!!最高〜〜!よかったね、一にい!!」
「そうだろう?!夏梨!!最高のお年玉だろう?!」

「・・・・てめえ・・・・」
「おお!一護よ!!恥ずかしがる事はないぞ!もっと素直に喜んで・・・ぶっ」
「誰が喜ぶか!!中学で肩たたきなんて必要なワケねえだろうが!!
って、その前にお年玉でこんなの誰が入れるか、ボケ!!
ていうか、何だ、<思春期>な悩みって!!」
「ぐお!男の<思春期>な悩みと言えば決まっているだろう!!肉体の神秘・・ぐあっ!」
「遊子や夏梨の前で言うんじゃねえ!」

・・・・親子喧嘩の事始。


黒崎家は元旦から始まるようである。


今年も騒々しくて、賑やかな黒崎家となりそうだ。
そんな面々を遺影の母は満面の笑みで見守っていた。






なんちゃって。

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