キャッチボール(石田雨竜)

僕は高校に入るまで、友達らしい友達を持った事が無かった。
もちろん、普通に会話が出来る程度のクラスメートはいた。

しかし、僕が友達だと思えるような誰かはいなかった。


僕はそれでも淋しいと思ったことはなかった。
何故なら、成績さえよければ学校の先生たちは、僕をちやほやしていたし、クラスメートたちも僕には一目置く。
もっとも・・陰で何を言っていたのかは、知らないけどね。
けど、僕もそんなことには興味は無い。

友達はいなくても、学校生活に不自由は無かったよ。
何かのグループ分けの時でも、僕が一人と見ると必ず声がどこからかかかる。
僕がいると、作業が早くなる事を誰もが知っているからだ。

必要に応じて、クラスメートたちとは関わればいい。


そんな生活が普通だと思っていた。

・・今だから思うけど・・・やはり少しつまらなかったかな。


でも、高校に入ってからは、違う。
僕は、僕自身が何か変わったことを感じている。

きっかけは・・黒崎との勝負だった。
黒崎は死神の能力を身につけていた。人間なのにだ。
僕の憎んでいる死神が、僕と同じクラスでいるなんて・・・・許せなかった。
僕と同じ年で、憎む死神である黒崎に、僕は挑戦した。
証明したかったんだ、死神よりも滅却師が優れているという事を。

・・・今から考えれば、僕も少し軽率だったと反省しているけど。
黒崎との勝負は、いつの間にかホロウを倒す共同戦線に変わっていた。
僕と黒崎が喧嘩をしながらも同じ目的の為に協力する。

そして、気づけば不思議な充実感を僕は確かに感じていた。

今も僕と黒崎は顔を合わせれば、必ずといっていいほど言い合いになる。
僕は黒崎の無鉄砲で、無計画なところを非難するし、黒崎は僕を理屈っぽくて説明が長いと非難する。

いつも、言い合いに決着は無い。

しかし、僕は黒崎を評価してもいるんだ。
彼は確かに、短気で無鉄砲で無計画でムチャクチャだが、僕には無いものを確かに持っている。
黒崎の周りの人たちを護ろうとするその熱意には・・・本当は尊敬すらしている・・。

死神を憎む気持ちには変わりはない。
それはこの先変わることはないだろう。

しかし・・黒崎が何か戦わなければいけなくなった時・・その場に僕もいたいと思う。

黒崎のことを友達だとは思わないけど・・それでも同じ目的の為戦う事があるのなら・・『仲間』でありたいんだ。
矛盾しているとは知ってる。
だけど・・・理屈じゃ解決できない事もある。

それを僕に教えてくれたのも・・・黒崎だ。


これからも、僕たちは顔を見れば言い争うだろう。
え?折角出来た友達なのに、喧嘩するのが怖くないのかだって?

喧嘩をするのは、そんなに避けるべきことなのかい?
言い争いになるということは、二人の意見がぶつかっている証拠だ。
友達とは言う関係は自分のことを相手に知ってもらい、相手のことを自分も知ることだろう?
それならば、当然自分がどういう人間なのか、相手に対し意見を発しなければならない。
そして、相手もこちらに意見を返してもらわなければいけないんだ。

そう。野球のキャッチボールのようにね。
けど、球は2個だ。投げ合ったボールがかち合う事だってあるよ。
でもかち合わなければ、相手とどういうボールを投げあうのか、話し合う事なんてないだろう?
そうすれば、次にはまたよりスムーズなものになる。
相手がどう投げてくるのか分かるからね。

でも、忘れてはいけない事がある。
相手が必ず取れるボールを投げてくるわけではないし、自分もたまには暴投してしまうという事だ。
自分が完璧ではないように、相手も完璧ではない。
だから、相手の欠点を受け入れた上で、忠告すべき事はしなければならない。
そして、自分もそれを受け入れなければならないんだ。

何人とキャッチボールが出来るかは、個人によるだろう。
僕は少ないし、黒崎は多い。
でも数の問題ではないと僕は思う。

大事な事は、先ずボールを投げる事。
そして、相手のボールを受けようとすることだ。


信頼関係を作ることは、そうそう簡単なことじゃない。
なんどもキャッチボールを重ねて・・そして失敗を何度も経験しながら積み重なっていくものだ。
何日も何日も重ねてね。

僕は高校に入るまで、ボールを投げようとさえしていなかった。


・・君はどうかな?キャッチボールが出来る友達はいるかい?
まず、投げてみる事だよ。上手く投げられなくてもいい。
僕だって、黒崎に最初に投げたボールは大暴投だったし。
それでもボールは返ってきた。

そして、上手くボールを取れなくたっていい。
取ろうとする気持ちが大事だと僕は思う。
その気持ちがある限り、回を重ねれば必ず上手く出来るようになる。
最初の方の失敗を、怖がらない事だ。

でも・・・実際はやっぱり怖いけどね。


僕もまだ上手く出来ていないと思う。
でも最初の失敗だらけの時を乗り越えれば・・・きっと楽しく思える時が来るんじゃないかな。


最初から上手く出来る人なんてそうそういない。
それが普通だと僕は思う。





そういや・・・実際野球は僕は苦手だったな。


・・・団体競技が合わなくてね。







なんちゃって。

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