麻酔科医、砕蜂

 

・・・・麻酔科医。

これもあまり聞きなれない言葉だ。
一般的に手術の際の麻酔ばかりしてそうなイメージがあるかもしれないが、それだけではない。
そして、麻酔科医が手術に立ち会うかどうかで、手術成功率が違うとさえ言われているのである。

たとえば、交通事故で運ばれてきた急患がいるとする。

重体。当然手術が必要である。
そこでまず、手術をするにあたって、どれくらいの麻酔をかけるのかというところから、麻酔科医の仕事は始まる。
なにせ、重体患者だ。一つ間違えれば、患者の生命に直結する。
人工呼吸の気管挿入も麻酔科医の仕事だ。

筋肉の硬直が激しくて、手術が行いにくい場合にも、その処置をするし、外科医による手術中に異変が生じた場合でも、その処置をする。

外科医は麻酔科医がいてこそ、手術のみに専念できるというわけである。

手術後も、患者の痛みを和らげるために鎮痛剤などの投与においても、患者一人ひとりの容態や薬に利き方にあわせて、調節しなければならない。

それゆえ、外科医と同様に当直もこなさなければならぬという、ハードな医者なのだ。



・・・巨大基幹病院BLEACH・・・。

ここにも当然、麻酔科が存在する。
そして、麻酔科におけるエースといわれる者も・・・。


深夜の手術室。
外科医よりも先に患者の容態を見ている者がいた。

その者こそ・・麻酔科医、砕蜂である。

「・・なるほど・・全身打撲と肋骨の骨折箇所4つか・・。気管挿入も・・した方がよさそうだな。」
レントゲン、及び患者の様子から、的確な判断をする砕蜂。
器具の準備をしている時に、足早な足音を聞きつける。

「・・また貴様か・・。檜佐木。」
振り返りもせずに言う、砕蜂。

「・・・よろしく。」
外科医の檜佐木も無愛想に答える。

何を隠そう、この二人、当病院における当直数No.1を競う仲だ。
無口で無愛想。しかし、タフで正確。そして、当直を嫌がらない。
この点において、二人は共通している。

もっとも砕蜂は女性で、不利な部分もあるのだが、その分負けん気とプライドは勝っている。

「これより、私が全身麻酔と気管挿入に入る。
後は上手くやれ。いいな、しくじるなよ?」
「・・了解。」

一見砕蜂は小柄で、遠目には子供かとさえ思ってしまうが、年は檜佐木よりも上だ。
可愛い顔をしてはいるのだが、人を寄せ付けないオーラを放っていた。
しかし、腕は超一流だ。

そんな彼女の麻酔方法には、特徴がある。
人呼んで、「弐撃決殺」。
どんな麻酔の効きにくい状態及び患者でも、2発目の処置で麻酔下においてしまうというものだ。

「行くぞ。」
今日も雀蜂の針が患者の命を救う。

以前誰かが砕蜂に、「どうして麻酔を一発で決めないのか?」と聞いたことがある。
そのものに対し、砕蜂はこう答えたそうだ。

「・・・薬も毒も表裏一体だからな。
少量で効くというのならそれに越したことは無い。

我々麻酔医は、効けばよいというのではなく、いかに少ない薬の投与で済ませるか、を考えるのも重要な仕事なのだ。」


麻酔科の女王蜂は今日も孤独に針を刺す。
しかし、その針はプロフェッショナルとしての誇りそのものなのだ。


・・・そんな砕蜂だが・・・。
実は憧れる医師がいる。

整形外科の四楓院夜一だ。
四楓院と同じ手術の場にたちたくて、砕蜂は麻酔科医になった。
同じ整形外科を志すか、迷いに迷った結果だ。

時間が少しでも空けば、砕蜂は夜一の様子を覗きに行く。

「見苦しいぞ!おとなしくしろ!!大の男があごが外れたくらいでガタガタわめくな!!
いいか!入れるぞ!!」
ガキッ!!!

夜一の得意技は外れた関節を入れることだ。
同じ整形外科の恋次も、まだ夜一には適わない。

「ああ・・!!なんてお美しい・・!!
施術を行うお姿さえ、雄雄しさに満ちておられる・・!!

おのれ、あの男め・・・夜一様のお手を煩わせるとは・・・!!
許せぬ!!」
今日も、砕蜂の「ドキドキ夜一様、観察日記v」には夜一の素晴らしさと患者への呪詛の言葉がつらつらと綴られそうである。



優秀な砕蜂だが、まだ夜一と同じ手術の現場になったことは無い。


・・・・舞い上がって何をするか分からないという、上層部の判断によるものだという。





なんちゃって。




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