睦月の末に雪花散る(朽木白哉)

1月の末。
どんよりと低く垂れ込める雲と低い気温が雪がまもなく降ってくることを知らせている。

白哉は庭先に一人佇んでいた。
部屋からふらりと出てきたようで、外に出るにはあまりに薄着だ。
しかし、庭を眺める様子は寒さなど微塵も感じていないように見えた。

背後から人が近づいてくる。
白哉は後ろも見ずにその者を当てた。
「・・・ルキアか・・。」

「・・兄様。そのままではお風邪を引きます。」
薄着で庭に立つ兄を見かねたのか、ルキアが男物の上着を持ってやって来ていた。
手に持つのは白哉の物だ。
恐らく爺に出させたのであろう。

「・・・降ってきたな。」
見れば空から雪がちらほらと落ちてきている。
白哉の周りに降る雪は、彼の始解を思わせた。

「・・まるで兄様の千本桜のようですね。」
ルキアが兄の背に上着を着せかける。
身長の差が相当あるため、背伸びをしなければ肩先へは届かない。
だが兄は協力する様子もなく、じっとしていた。

「・・・桜か。
確かに儚さという点では似ているかも知れぬな。」

「雪も・・そして桜も・・何故その儚さは人を惹きつけるのでしょうか・。」
ひとり言のように話すルキア。

「その散り際に・・・桜の全てを見るからであろうな・・・。
桜の一生をその散り際の僅かな時間に凝縮しているからこそ、桜は美しいといわれるのやも知れぬ。」

「・・・そうかも知れませぬ・・・。
ですが、私は花の時期のみが美しい時だとは思いませぬ。」

「・・ほう。何故だ。」

「桜は花を散らせた後、また1年花を咲かせるために一人静かに努力をいたします。
でも余人にはその努力を悟らせませぬ。
夏の暑さも、冬の寒さもただひたすら春に花を咲かせるために、人知れず努力をしております。
しかしながら、ただひたすらに沈黙をしております。

・・・春のただ一瞬のために。

その強さが私は美しいと思います。」

「・・・そうか。」





「・・・兄様・・・。」

「・・・なんだ・・・。」

「誕生日・・・おめでとうございます。」

「・・・・。」

「私は何も出来ませぬが・・・。
兄様をこの私に与えてくださったこの日を・・・感謝しております・・・。」

「・・・。そうか。」



それからの兄と妹に会話はない。



ただ・・・・・無言で雪が降り落ちてくる空を眺めていた。




なんちゃって。

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