名残の雪(朽木白哉)
3月上旬、冷え込む夜のことだった。
自室で書物を読んでいた白哉は、ふと立ち上がり縁側に出る。締め切られた鎧戸を開けると・・・
雪が降っていた・・。
降り始めて未だ間もないのだろう。
木々の葉が白くなり行く所だった。
時折吹く風が雪花を空へ舞い上げる。
そのまま庭に降り立つ白哉。
闇夜に浮かぶ白哉の姿と雪花は、彼の持つ斬魄刀の能力を解放しているかのような美しさだった。
頬に落ちた雪の欠片が、肌の熱により溶けていく。
構わず空を見上げる白哉。
「・・・名残雪か・・。」
春に冬の名残を謳う雪。
冬の厳しさを忘れる事なかれ、と伝えているようにも見える。
変わり行く季節。
そして・・・変わり行く時代。
白哉は感じていた。
これから、歴史の激動が始まる事を。
悠久の歴史を築いてきたこの朽木家にもその激動の波を避けることは出来ないだろう。
この社会の仕組みそのものが根底から変わってしまう可能性さえ感じていた。
しかし、この朽木の歴史においても全てが順風だったわけではない。
数多くの苦難を乗り越えて今の朽木が存在する。
その積み重ねた歴史なれど、滅ぶのはたやすい。
次へとつなぐ事の難しさを白哉は、よく知っている。
歴史や掟を重んじる朽木は、歴史においては瀞霊廷において春の象徴、桜であるとともに、厳格さゆえ、冬の雪でもある存在だ。
変わり行く時代を否定するつもりは無い。
かといって、朽木の伝統をことさらに変えるつもりも無い。
藍染惣右介の謀反により、尸魂界の制度の疲弊は露呈済みだ。
そして、その反省により、より柔軟な方針へと変化しつつある。
白哉自身、考え方においてその影響を受けてきていることを自覚していた。
変わり行く己。
されど、変えられぬ己。
朽木の当主として育てられた己は、最早朽木の運命からは逃れられぬ。
そして逃れるつもりもない。
・・いつしか・・・。
朽木の名がこの名残雪のごとく、消え去る時が来るのやも知れぬ。
しかし、それもまた運命。
消え去るその瞬間まで、私は朽木の当主としてあり続けるだろう。
・・・朽木の歴史上、最強の当主として。
瀞霊廷の歴史の守人であり続けるだろう。
・・・来るべき次の歴史が春の日になるよう、
・・・冬の厳しさを知らしめる者として。
なんちゃって。