ネゴシエーション(ルピ・ギン・藍染)

ネゴシエーション【negotiation】「話し合いにより、互いにある合意点に達すること」



グリムジョーが片腕を失った。

藍染惣右介の命令を無視し独断で行動したためだ。藍染は許すとしたが、東仙要がそれを許さなかった。
藍染惣右介の命を無視した代償として、グリムジョーの片腕を失わせる事でその償いとした。


グリムジョーが失う事になったのは、片腕だけではない。
片腕を失う事で戦闘能力は低下する。
それにより彼は、No.6の座も同時に失う事となったのである。

空座になったN0.6の地位・・・。

その座を狙って動く者がここにいる・・・。


「市丸さ〜〜ん、いる?」
ギンの私室を尋ねる者が居た。
「ルピくんやろ?居るよ?入っといで。」

「お邪魔しまーす。」
扉を開けて入ってきたのは少年体型の破面だ。名前はルピ。

小柄で華奢な体型。明らかに袖の長さは合っておらず、手の先が見えぬほどである。
襟足くらいで切られている髪は、癖毛なのか毛先がカールしている。
まるで、はねっかえりの性格を表したかのようだ。
くるくるとした大きな目、小さな口。
誰でも可愛いという外見をしているが、その表情は可愛いだけではない事を明らかに表している。

小悪魔で小生意気。
しかし、それすら自分のカラーとして定着している存在だった。

「また部屋にまでどないしたのん、なんか相談でも?」
普段はうろついているギンが部屋に居る事も珍しい。
ルピに椅子を勧め、訪問理由を聞く。

「そ。お願いがあるんだけど。」
「お願いいうて何やのん?」

「ボクをNo.6にしてもらえるように、藍染様に頼んでもらえないかなァ。」
「可笑しな事言うねえ。そんなん直接頼んだらええやん。
なんでボクに?」

「だって、ボクが直接言っても絶対してくれないんだもん。」
「で、ボクが言うたらしてくれはるのん?藍染さんが。」
「そ。だって市丸さんて藍染様の副官なんでしょ?」
「副官ねえ。それやったら破面を統括してる要の方がええんちゃう?
直接の上司なんやし。キミの。」
「東仙さんに?ダメダメ〜〜。あの人にこんな話したら、絶対怒るんだもん。
それにボク、頭の硬そうなヒトって苦手なんだよね〜〜。」
「あァ、それ分かるわ、ボクもそうやし。」
「でしょ?ねえ、お願いだからさァ。ボク・・推して?」

下から見上げてお願いするルピは、いかにも蠱惑的だ。
自分の魅力をよく知っている。

それを面白そうに見ていたギン。実にあっさりと答えた。

「ええよ。ボクが藍染さんに言うてみるわ。」

「ホント!!?ありがとう!!だから市丸さんてボク好き!!」
「けど、ホンマになれるかどうか分からへんで?」
「なれるよ!だって市丸さんに甘いもん。藍染様って。
何がいい?お礼。」
「そんなんエエよ。まだなれるかどうかも分からへんのに。」
「考えといて!ありがと!!じゃあね!」

ご機嫌で部屋を出て行くルピ。
えらくあっさりと辞去したことに少し驚いたようなギンだったが・・・。


扉が閉まる音とともに・・・ニヤリと独特の笑みをこぼしていた。
次にギンは、自らの部屋を後にする。
無論藍染に会うためだ。

「今、ええですか?」
藍染の私室に自由に入ることを許されているのは、ギンと要しかいない。
「・・ギンか。いいとも。入っておいで。」

藍染は何やら映像の解析をしているようだった。
「人間の女の子の映像やなんてエライ楽しそうなもの見てはりますなァ。」
ギンが軽口をたたくと、藍染も軽く返す。
「ああ、面白い能力を持っていてね。
事象の拒絶だ。・・面白いと思わないかい?

・・で?何かな?」
「グリムジョーってNo.6落とすおつもりなんやろ?」
「今の実力ならそうなるね。」
「ほな、その後ルピくんをNo.6にしたってくれまへん?」
「ルピを?

・・・なるほど。
彼にお願いされたのかな?」
「そうです。そやかて番号をまた繰り上げていくって面倒やありません?」
「面倒・・か。確かにそうかもしれないな。」
「グリムジョーはどないしますのん?」
「特に何もしないよ。要に言わせれば、今が<反省>の時間といったところだろう。」
「ほな、尚更誰かをNo.6にせな。
<反省>の度合いが違いますよ?」

言いつつ、藍染が見ていた映像を見るギン。
「なるほどなァ。こら面白いわ。
連れてこさせるですやろ?この子。」
「そのつもりだ。」

「・・それで試しにグリムジョーの腕治させるおつもりやろ。違う?」
「いいのか?そうなるとお前にお願いしたルピが困ることになると思うが。」
「気にせんでええよ。ボクがお願いされたんは、No.6に推すことだけやし。
それに可哀想やありませんか。あない腕が無いやなんて。

その後は自分でNo.6を守ってもらわな。なァ?」
「つまりはそれを見たいようだね。

・・・仕方の無い子だ。
いいだろう。ルピをNo.6にすることを認めよう。
明日にでも破面たちを集めておきなさい。」

「グリムジョーも、やろ?」
「それはお前に任せよう。」


翌日・・・。
破面が広間に集められる。
ルピのNo.6の就任式というわけだ。

先にグリムジョーの背中の数字が東仙によって消されることになっていた。
消すといっても背中の皮ごと剥がされるという過酷なものだった。
グリムジョーはその苦痛に声一つ立てなかった。

続いて、ルピの数字が授けられる。

十刃たちは自分の数字の刻印を受けて、正式に十刃と認められる。
そして、その数字を与えるのは藍染だ。

「・・・何処に数字を与えられたいのかな?」
言われてルピは上着を脱いだ。
華奢な体だ。外見だけなら戦闘に向くとは思わないだろう。骨が薄く浮いて見える。

「ここに。」
ルピが指差した所は右の下腹部。
丁度、上着の開いた所から僅かに数字が望める位置だ。

「いいだろう。」
藍染がルピに近付く。
ゆっくり右手が上げられる。

そしてルピの下腹部を藍染の指先がなぞっていく。
・・・6の軌跡を描いて。

「・・・!!」
指先が離れた所には数字の6が浮いている。

「・・君にNo.6の称号を与えよう。
ルピ、おめでとう。」
「ありがとうございます!藍染様!」

喜ぶルピに対し、数字を失ったグリムジョーは悔しさと喪失感を表情に露にしていた。

そのグリムジョーにちらりと一瞥をして、藍染は去っていった。
その後ろに続くのはギン。

「お仕置き期間が始まりましたなァ。藍染隊長?」
「お前のお楽しみ期間が、と言った方が私は正確だと思うが。」


・・・部下の再教育と自らの愉しみ。


一つのネゴシエーションの形がそこにはあった。




なんちゃって。

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