兄様のお好きな食べ物(朽木白哉)
兄様(朽木白哉)は実は外食が好きだ。
・・・何故なら外食では、屋敷では食べられぬ物が食べられるからである。
初めて、料理店で食べたものは四川料理だった。
大貴族では、食事における礼儀作法が完璧になる時まで、外食は許されない。
大貴族たるものが、みっともない食事の作法を見せるわけにはいかないと理由からだ。
ようやく、外で食べても良いと許可が出た兄様が連れて来られたのがここだった。
普段食べてないものを食べた方がよいだろう、と言う配慮からだった。
若き兄様はそこで深い感銘を受ける。
『・・このような料理があったとは・・。』
兄様が感銘を受けたのには理由がある。
屋敷で出される料理は、兄様の健康を気遣うあまり、かなりの薄味だ。
刺激の強いものは、胃に負担がかかるとして敬遠されている。
そして・・・・温い。(単に冷めているとも言う)
広大な朽木邸。
調理室を出るときには、湯気を立てている料理も兄様が食事を取る部屋に運ばれるまでに冷めてしまう。
温めなおすと言うことも考えられるが、下手に熱いものを出して四大貴族の朽木家の跡取りの舌に火傷なんぞを作らせようなら、料理人の首が飛ぶ。
そのため温めなおすという配慮はない。
他の貴族の宴によばれ、そこの食事を食べるということもあるが、そこでの食事も似たようなものだった。
毎日毎日薄味で温い物を食べさせられていた兄様。
当然食の意識は薄くなる。
食事の行儀作法には厳しく教育させられていたため、完璧だったが、肝心の食べるものには無頓着。
兄様はそんな風に育っていた。
さて、四川料理店で出された湯気の出るサンラータン(辛いスープ)。
ふんだんに使われた唐辛子。
それまで味気のない料理ばかりを味わってきた兄様の舌は歓喜した。
『このように刺激のある料理があったとは・・・。』
初めて食物に感動を覚えた時だ。
舌が焼けるほど熱く、そして辛い。
・・その時、兄様は食欲と言うものを体験することとなる。
それ以来、兄様は外食が大好きになった。
といっても、そこは大貴族。
あそこもここもと行くわけにはいかない。
しかし、外食する時には必ず辛い物を食べるようになった。
親から離れ、自らの主導で外食が出来るようになると、通う店に段々と注文をつけるようになった。
「・・・他に辛い料理はないのか・・?」
「・・・これはもっと辛くは出来ぬものなのか?」
食の刺激を求めるあまり、段々と過激な方向へ走っていく兄様。
ある一定レベルからは、もはや味の領域を越えるようになっていたが、店の主人はひたすら応じる。
なんてったって、「朽木家の跡取りが足しげく通う店」。
この評判は絶大だったからだ。
あの食には疎いと思われていた「朽木白哉」が虜になっている料理とはなんなのか?どんな店なのか?
それだけでも客は3倍に増えた。
当然、同じものを出せと客には言われるが、支配人はすましてこう答えているそうな。
「あのお料理を召し上がれるのは、朽木様のみでございます。
なぜなら、あのお料理は朽木様のご要望により、朽木様だけの為にお作りしているのですから。」
・・・嘘ではない。
単に他の人間が食うと病院送りになるから。という本当の理由を言う必要はないだろう。
支配人が試しに食べてみて、1週間胃腸の不具合にあった事等はトップシークレットだ。
その他同じような対応をする超高級インド料理店と超高級タイ料理店があるのだそうな。
それなりに外食で、満足を得るようになった兄様。
だが、欲は出るものだ。
他にも辛い料理を試してみたい。
庶民が食べるものにも興味を引かれるものはある。
しかし、そうそう出かけていくわけにはいかない。
だって、大貴族なんだもん。
そんな折だ。
恋次が副官にやってきた。
恋次は戌吊出身。
・・・使える。
兄様一人では入れないような店も、恋次を伴えば入れるようになる。
超高級料理店から超の文字を取ったような店でも入れるようになるはずだ。
・・・格段に行ける店が広がる。
そこで兄様、恋次を伴い新たな店の新規開拓をこっそり趣味にしている。
気に入った店には、「兄様スペシャルメニュー」が厳重に保管されている。
とても一般人は食べれないようなものばかりだ。
‥辛くて。(笑)
更に行ける店のレパートリーを増やしつつある兄様。
ここへ来て新たな悩みがある。
それは・・・。
MY一味(中身は世界一辛い唐辛子、ハバネロ)を持ち歩きたいということだ。
ある料理店で、懐からMY調味料を出し、料理に振りかける客を見て深い感銘を受けた兄様。
『・・・・なるほど。あれならば何時なりとも私の好みの辛さに出来るな。』
しかし、流石にそれは下品だ。
・・・でもやってみたい。
ふと目をやれば、副官の恋次。
『・・・こやつが持っているならば、おかしくはないな。』
しかし、己の嗜好品を部下に持たせるというのも、少々一脱しているような気もするゆえ、まだ命じてはいない。
・・・とりあえずは、店に「兄様MY一味」を置くところから始めている。
唐辛子で既に赤い料理にMY一味でさらに赤い桜吹雪を降らせる兄様。
・・・・無表情だが嬉しそうな様子を見られる数少ない瞬間だ。
『・・・カンベンしてくれ・。』
恋次は六番隊に配属されてから辛い物が嫌いになった。
・・・・理由は言わずとも分かるだろう。
なんちゃって。