兄様の背中(朽木ルキア)
・・・兄様は一度だって・・私のことを見みてくれたことなど無い・・・。
ずっとそう思ってきた。
朽木家に拾われて40余年・・・。
・・・覚えているのは兄様の背中ばかりだ。
時折私と話をする時でも・・背中越しか、書類を読みながらか・・・。
目を合わせて話した事など・・殆ど無いといっていい・・。
兄様と目が合うときは何かを問われる時だ。
心臓まで貫かれるような鋭い・・しかし冷たい眼差し。
次元の違う霊圧。気品、威厳、自信・・そして人をひれ伏させる、生まれ持った格。
圧倒されて・・・目を合わせられなくて・・・下を向く私がいた・。
・・何と私とは違うのだろうか・・。
兄様と比べて、私はなんて矮小な存在なのだろうか・・。
朽木家に拾われ、朽木の性を名乗る以上、朽木の名にふさわしくあらねばならない・・。
必死で鍛錬し、己を磨いてきたつもりでも・・・
それでも、其の手本となるべき兄様の背中は・・・あまりにも遠い存在だった。
一護たちによって、私は命を救われた。
命だけではない。前に進もうと思う気概を救われた。
しかし、その一護も重傷を負い、市丸により命を絶たれようという時には、死を覚悟した。
まさか・・兄様が私を助けてくださるとは・・・。
しかし、その理由については、兄様の告白で納得が行った。
姉さまとの約束であったから。
私を・・妹として護ると・・。
先の戦いで、私は兄さまのことを少し分かった気がした。
強く美しく、誇り高き兄様。
・・しかし、その兄様とて、悩む時があるということを。
苦しむ事があると言う事を。
それを知り・・私は少し兄様の背中が近くなったように思えた。
しかし・・それでも兄様の背中は遠い。
「斬」「拳」「走」「鬼」のみならず、兄様はその美的感覚においても私の遥か彼方にある。
兄様に、苦手な事などあるのであろうか・・。
いや・・もしあるとするならば・・・。
・・・いや・・兄様にそんなものがあるはずがない・・。
・・・私は知った。
兄様は決して私を見ていなくはないことを。
ちゃんと私のことを理解してくれていることを。
ちゃんと・・わたしを・・見ていてくれているのだ。
井上を助けに行きたくて、その方法を必死で探していた私のことも。
兄様に相談したくても、出来なかった事も。
何度も何度も兄様に相談するために、私室を訪ねようとして・・結局は出来なかった事も・・きっとご存知なのだろうな・・。
嬉しかった。
私のことを見てくれていたことも。
そして、私に手を差し伸べてくださった事も。
・・いかにも兄様らしい差し伸べ方だが・・。
それでも私に手を差し伸べる事は、今までの兄様ならば絶対にされないことだ。
何故なら、尸魂界の意思に反する事なのだから。
私と恋次が虚圏に行って、真っ先に共謀者と疑われるのは兄様だ。
それを解って手を差し伸べてくださったのだ。
・・嬉しかった・・。
何故なら初めて私は兄様から直に物を頂いた。
砂よけのマントだ。
隊の意思に反して行動する私を、黙認するどころか・・気遣ってくださるとは・・。
・・嬉しかった。
そして何故か恥ずかしい。
あの兄様が・・私のことを思って物を下さるとは・・。
何故かは分からぬが・・頬が熱い気がする。
兄様の背は私に向けられたままだ。そして遠い。
でも、私のことをちゃんと見ている背中だ。
何時か追いつけるのであろうか。
私は知っている。
兄様の背中に、怖れつつも憧れを抱いているという事を。
そして、向けられた背中に護られているということを。
だから今は・・その背に向かって頭を下げよう。
感謝をこめて・。
そして帰還を約束しよう。
兄様・・行ってまいります!!
次にお会いする時・・兄様の背中が・・もう少し近くなっているように・・
私も強くなろう・・。
ちゃんと兄様と・・目が合わせられる私でいたいのだ・・。
なんちゃって。