残る者(日番谷冬獅郎)

井上織姫なる旅禍の女を救出すべく、卯ノ花、朽木、更木、涅の4名の隊長が虚圏に行くことが決まった。
虚圏に行く者たちは、早速準備をすべく隊首会を先に去る。
残って、尺魂界の守護にあたる隊長たちが、不測の事態・・・いわゆる破面が再び現れた際の、守備について取り決めを行っていた。

取り決めを行うと言っても、総隊長の山本からの案を、異議なしとてそのまま決める程度ではあるのだが。

「それでは万が一の際には、今の取り決めに従い行動するように。以上じゃ。」
山本のその言葉で散会となった。

隊首室を出る隊長たち。
浮竹が何やら心配そうに感想を漏らす。
「やれやれ、あっさり虚圏に行く者たちが決まったのは良かったが、何か心配だな。」
すると、春水が面白そうに答えた。
「まあ・・なかなか個性的な面子が揃ったからねえ〜。」
「行く前からあいつ等の間でもめ事が起こらなければいいのだが。」
「大丈夫さ〜。あれで彼らも大人だしねえ〜。」

そこへ新たな感想を言うものがいた。
「もっと正確に言え、京楽。『協調性の欠片も無え大人』だろうが。」
天才児、日番谷冬獅郎だ。
「やっぱり君も揉めると思うかい?日番谷隊長。」
白髪をポリポリとかきながら困ったように浮竹が聞く。

「団体行動になりゃ揉めるだろうな。特に更木と涅はな。もっとも朽木もあいつらとは意見はまず合わねぇだろうし。
まとめるとすりゃ、卯ノ花だろう。」
「まあ、確かに更木君と涅くんなら可能性はあるだろうねえ。けどまあ、卯ノ花隊長もいるんだし。淑女の前でそんな事にはならないさ〜。」
「甘いな、京楽。あいつらはそんな気づかいをするタマじゃねえだろうが。」

「こりゃ、一本取られちゃったねえ。流石は日番谷隊長だな〜。
で、話は変わるけど・・虚圏行きに君が志願しなかったのはちょっと意外だったねえ。あ、それはでも狛村隊長もだけどさ〜。」
と、春水が前を行く狛村の大きな背中に問いかける。すると、歩みを止めずに狛村が答えた。

「わしは・・今虚圏に行けば、東仙に会い、そして問いたださずには帰れまい。
今回の任務は単に旅禍の女の奪還だ。

・・・・わしは行かぬほうがよかろう。」
何所か苦さを含んだ声が聞こえた。

「・・なるほどねえ。で?日番谷隊長も同じようなものなの?」
「・・・さあな。
4人も隊長が出向くんだ。わざわざ俺が行く必要も無ぇだろう。
尺魂界をガラ空きにしとく訳にもいかねえ。
同時に破面共が攻め込んでくる可能性もあるしな。

大体・・今回の任務は井上織姫の奪還だ。4人も行けば十分だろう。」

「・・・ふうん。なるほどねえ。」

何やら含みのある声で春水が言った。


十番隊に戻り、乱菊に状況を簡素に説明する。すると乱菊からも、同じ質問が出た。
「隊長、虚圏に行きたくなかったんですか?意外〜〜。」

今日は同じ質問をされる日だな、と思いつつ、冬獅郎が答える。
「行きてえさ。」
「だったら・・・。」

「<藍染を殺す目的>じゃねえなら行く意味がねえだろうが。
総隊長からは藍染とはまだやり合うなという指示が出てる。

井上がどんなに貴重な能力を持っていたとしても、藍染が阻止に直接動くとは思えねぇ。
藍染は今回出てこねえだろう。
・・・・だったら、虚圏に行く意味が無え。

少なくとも・・・・俺にとってはな。」

「・・隊長・。」
「お前は?」「え?」「お前はどうなんだ。虚圏に行きたかったか?」

聞かれた乱菊の脳裏に一瞬、銀髪の男の後ろ姿が浮かんだ。
思わず俯く顔。
「・・・いいえ。」
「・・理由を聞いていいか。」

こういう時、冬獅郎は乱菊の方に目を向けない。
この少年の気づかいなのだろう。ふうと息をつき、笑顔で言う。
「隊長と理由は大体おんなじですよ。」

その声に、先ほどの狛村と同じ苦さがある。

「そうか。」

冬獅郎が相変わらず、乱菊の方に目を向けずに、相槌をうった。


・・来たるべき日は必ず来る。
その日を待ちわびているのか・それとも、心の何処かでは恐れているのか・・。


今更ながらに、未だ癒えぬ心の傷を知る冬獅郎だった。




なんちゃって。

inserted by FC2 system