想いよ、天に咲け(志波空鶴)

藍染惣右介、市丸ギン、東仙要の謀反から、最初の夏がやってきた。

そして、今年も盆の時期を迎える事となる。

四十六室の全滅をはじめ、人的被害とともに、遺された者にも精神的被害はいまだ、不快爪あとを残したままだ。

人々はその癒えぬ心を抱えたまま、日々を過ごしていた。


流魂街の花火師、空鶴が最も力を入れる、夏最大の花火大会が近づいてきていた。
花火大会の最大の目玉は、最後に打ち上げられる、「海燕」とよばれる最大の大玉花火だ。

「海燕」見られるのは、この盆の花火大会において他はない。
故に、この花火は夏の風物詩となっていた。


「姉ちゃん、なんか今年はデカイのが2つもあっけどよ・・。
もしかして今年は、『海燕』を二つ上げんのか?」

「莫迦野郎!!てめえはまだ、花火の玉の大きさも見分けがつかねえのか!!
一体何年やってんだ!!
生まれたところから、もう一遍、やりなおせ!!」

空鶴にのんきな質問をしてぶん殴られるのは、彼女の弟、岩鷲だ。

「よく見ろ!!違うだろうが!!」
そう言われて、よく見れば、大きさが違う。
しかし、素人目に見れば、直ぐに見分けがつくものは少ない程度の差だ。

「そ・・そう言われて見れば・・・。
小さいほうは、予備になんのか?姉ちゃん。
でかい方は今まで俺、見たことないくれえデケエし・・。

ま、こんだけデカイ尺玉だと、失敗する確率高く・・・ぐお!!!」

「このオレが失敗するようなもんなんぞ、作るわけねえだろうが!!
待ってろ!!今お前の莫迦頭を、ぶん殴って正常に戻してやる!!」

「嘘!!嘘です!!姉ちゃん!!
姉ちゃんに限って失敗だなんてアリエマセン!ハイ!!
さっきのは言葉のアヤです!!
だから勘弁〜〜〜〜!!

・・・って、先に殴ってんじゃねえかよ〜〜!!」

「やかましい!!」ボグッ!!
「・・・・・・。←伸されている

お・・お姉さま・・・。
じゃ、その二つある大玉は一体・・・?」

「ひとつは『海燕』。デカイ方がそうだ。
そして、もうひとつは・・。」
「もうひとつは?」
「・・・・・オレたち以外のための『海燕』かな。」
「オレたち以外のため・・?」


・・・・『海燕』と呼ばれる、大玉の花火は、志波姉弟の亡き兄への弔いから端を発する。
死んだ魂を慰め、遺された者の想いを天に昇華させるために作られて来たものだ。
故に、『海燕』は、彼らにとっては実に特別なものなのである。

彼ら以外のための『海燕』。
空鶴は弟にそれ以上のことを語らず、答えは花火大会で示される事となる。

暗い思いを断ち切るかのごとく、人々は空鶴の上げる花火に夢中になっていた。

そして・・・残り2発となった。

先に上がったのは、彼ら以外のための『海燕』だ。

天空に巨大な大玉の花火が打ち上がり、花開く。
単なる大玉かと思いきや、開いた途端、様々な色の火が飛ぶ。
赤、青、緑、黄色・・・。
無数の色は、失われた魂か、遺された人々の想いなのか・・・。

そしてその様々な色はゆっくりと弧を描いて、下に下りていく。
それは、簡単には断ち切れない、人々の想いの様でもあった。


人々は、開いた時こそ歓声を上げるも、花火が消え行くまでは口をつぐむ。


・・・・・そして、最後に『海燕』が打ち上げられた。

更に巨大な天空の華。
こちらには一切の色は付けられていなかった。
その代わりに、弧を描いて落ちてゆく光の糸は、なんと地面まで続く。

その巨大な光の軌跡に、人々は言葉を失った。


「・・・・姉ちゃん・・。
・・・色・・つけなかったんだな・・・『海燕』の方には。」

「・・・オレ達の思いに『色』なんてつけられねえだろうが。」
「・・・そうかもな。」
「・・・・。

とっくの昔にケリをつけたつもりだった。
けど、兄貴を殺したホロウが、藍染の作った物だと知ったとき・・・。

オレの中でケリなんて、ついちゃいねえって分かったのさ。

つけたつもりでも、本当はそうじゃねえ。
・・・・そんな簡単につけられるもんなんかじゃ、ねえのかもな・・。
・・・・人の気持ちっていうのはよ。


だから、思いっ切り今年は引きずってやった。
来年になれば、また変わってくんのかもしれねえ。
けど、毎年あがる『海燕』はその年のオレ達の象徴だ。

今年は今年でいいんだよ。これでよ。」

「うん。良かったよ、姉ちゃん。」

何日も徹夜して、少し疲れた顔をしているが、岩鷲のほうに向けた空鶴の顔は、晴れやかなものだった。

「さ、今年は終わった。また来年に向けてがんばっぞ?
その前に、こっちも打ち上げと行こうじゃねえか!!」

「おう!!姉ちゃん!!
俺、今日は吐くまで呑むぜ!!」

「ていうか、お前いつもそうだろうが。」

「じゃ、今日は何時もの倍吐く!!」
「酒に失礼だ!!飲み込んどけ!!」


遺された姉弟の心の古傷は、未だ痛みを発している。

しかし、それごと抱えて明日に向かう強さを、彼らは同時に持っていた。


目指すは、来年の『海燕』。



・・・・・打ち上げられる花火は、その時の彼らの心の痛みにも似ている。





なんちゃって。


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