己の刃を打ち倒せ(黒崎一護)
「・・・97本目。」
具象化した斬月が、折れた刀の数を読み上げる。
刃先を折られた一護は、折れた刀を投げ捨てて、口にたまった血を吐き出す。
「・・ちっ。またハズレかよ。」
そして地上に突き刺さる残り3本の中から1本を引き抜き、またもや斬月に立ち向かっていく。
斬月は一護にこう言っている。
「この中に1本だけ本物の『斬月』(私)がいる。私を倒すことが出来るのは、その1本だけだ。」
これが、一護の卍解に至る修行となった。
猛然と斬りかかる一護に対し、斬月の方はというと息一つ乱さずに、一護の剣を凌いでいる。
そして、その辺に刺さっていた一本の剣で、まるでオモチャの剣か何かのように、一護の振るう剣を叩き折っていった。
一護もむざむざ剣を折られているわけではない。
斬月のスピード、攻撃パターン、防御のクセなどを驚くべきスピードで吸収している。
1本の剣で10分以上戦い続けるのも稀ではなくなってきた。
『この中にホンモノがあるっていることは、今持っているのを含めて3本の中に斬月があるはずだ!
行くぜ!オッサン!』
残りは3本。
果てしなくも思えていたこの修行も、その中に本物があると分かれば、気は楽だ。
あと3本戦い続ければいいのだから。
「・・・98本目。」
・・残りは2本。そして99本目の刀が、15分戦い抜いた後、根元から折れる。
「・・・99本目」
折れた刀が99本・・・ということは・・・。
「ちっ!ずいぶん手間取っちまったが、これが斬月だ!!
行くぜ、オッサン!!」
勝ち誇って一護が斬月に向かって刀を振り下ろす。
しかし、斬月はなんと素手でそれを受けた。
そして・・・
100本目の刀が・・・またしても折れてしまう。
最早、予備の刀は無い。すべて折れてしまったのだ。
呆然と折れた刀を見る一護。
「・・・どういうことだよ。こん中に本物の斬月があるはずじゃなかったのかよ!
どうなんだよ!オッサン!」
そして、怒りにも似た眼差しを斬月にぶつける。
しかし、斬月は顔色一つ変えずに、ただ静かに一護を見ていた。
何も語らない斬月。
『ちくしょう!この中に斬月があるっていったって、もう刀はねえじゃねえか!
斬月はどこなんだよ!』
心の中で盛大に毒づいた。
相も変わらず、斬月はただ静かに一護を見ている。
『なんか言えよ!刀持ったまんま、スカしやがって・・!
・・・?
・・・刀?!』
・・・そう。刀はある。
斬月が握っている、何処にでもあったような刀が。
「・・・・見えたぜ。
<それ>だったわけだ。」
斬月の持っている刀を奪う。
しかし、こちらには戦える剣はもうない。
素手で斬月から刀を奪わねばならぬのだ。
『イヤ・・・まだこいつがある。・・・折れてっけどな。』
手に残されたのは100本目の折れた刀。
「・・行くぜ。オッサン。」
言うや、折れた刀を持ったまま、斬月に向かっていく。
思い切り斬月の脳天めがけて刀を振り下ろす。
そうすると、斬月が防御の為に持っている刀を上げる。
『斬月のオッサンは刀で防御しておいて、もう一方の手で、俺を払い飛ばしに来るはずだ!そこを狙う!』
一護が振り下ろした剣は、斬月の持つ剣によって受け止められる。
その瞬間だ。一護が持っていた剣の柄から手を放す。
そして両手で斬月が刀を持つ手を抑えた。
流石に斬月に一瞬の怯みが生まれる。そして一護は着地するや否や、掴んだ腕を軸に斬月を一本背負いの要領で投げた。
斬月の長身が、地面に打ち付けられる。
そして次の瞬間。
「取ったぜ。・・・オッサン。」
斬月は自分の喉下に、それまで自分が持っていた刀を突きつけられているのを知った。
「・・ようやく。たどり着いたな。」
斬月が囁くように言うと、一護の持っていた刀がその形状を変える。
巨大な出刃包丁のような刀。その柄はない。ただ布で巻かれているだけだ。
まぎれもなく・・・「斬月」だった。
「これって・・一応オッサンを『屈服』させたことになんのか?」
なんだか信じられないように一護が問う。
「・・そうだ。」
「なんか、実感ないんだけどよ。」
「今に分かる。」
そして「斬月」の形状がさらに変化した。
今までの巨大な刃ではなく・・・普通の刀の形状へ。
唯一つ大きく違うのは・・・黒い刃であることだ。
「それが、卍解したときの真の姿だ。『天鎖斬月』という。」
「天鎖斬月?」
「能力は、最大戦力時での超高速を可能にすることだ。」
「最大戦力時での超高速?・・なんかよく分かんねえけど、スゴそうだな。」
「卍解を使いこなすには更に鍛錬が必要だ。
一護・・おまえは更に鍛えねばならぬぞ?」
「・・ああ。いくらでもやってやる。けど、あんまり時間はねえぜ?
間に合わなくなるからな。」
「よかろう。
だがその前に言っておくことがある。」
「・・なんだよ。」
「私はお前の戦う精神そのものに他ならない。
だが、ただ闇雲に戦おうとしても、真の力は発揮できないのだ。
戦いの精神のみに支配された者は、ただ獣の世界に堕ちるのみ。
冷静な精神で以て、抑えることも必要となる。
その極限を極められた者のみが、卍解に達することが出来るのだ。」
「要は、『オレ』を見失うな、ってことだろ?」
その時、斬月の頬が僅かに緩む。
「よく・・私を屈服させられたな・・。」
思いがけない無口な男の言葉に、一護は血だらけになった手で鼻の頭をかきながら、こう言った。
「当たり前だろ?そのためにやってんだ。」
卍解に達するものの、未だ習得せねばならぬものは多い。
再び一護と斬月の修行が始まった。
なんちゃって。