男の約束(藍染と日番谷)

 五番隊では、雛森副隊長の就任祝いが開かれていた。
現副隊長のすべてと、隊長の藍染に個人的に親しい隊長たちの姿も見える。
だいぶ酒も回っているのか、大声で騒ぎあっている輩もいた。
主役の雛森は、酔っ払った乱菊に無理やり酒を注がれている。横で七緒が乱菊を諌めているのが見えた。

それを少しはなれたところで、隊長の藍染は穏やかに眺めている。
大分呑んでいるはずだが、全く変わった所は無い。
付き合いの深い、京楽でさえも「そういや、惣右介君が酔っているのは見たことが無いねえ。」と言うそうな。
横では十番隊隊長の日番谷が、仏頂面で呑んでいる。
あまり呑まないが、呑めないわけではない。
ただ、どんちゃん騒ぎの宴会は苦手なようだ。

「藍染。すまねえな。松本の奴が騒いで。」
「かまわないよ。松本君は雛森君を気に入っているようだったからね。自分と同じ副隊長になったのが嬉しくてたまらないのだろう。
何より今日は祝いの席だ。
少しハメを外すくらいは、多めに見てあげてくれないか。」
「全く。どうにもあいつは、酒癖が悪くて・・。」

「楽しそうでいいじゃないか。それよりも・・・いいのかい?」
「・・・何が。」
「僕が副隊長に、雛森君を指名したことだよ。正直、君が反対するかと思ったが。」
「・・・しねえよ。あいつはお前の下で働きたくて、今まで必至にやってきたんだ。俺がどうこう言うことじゃねえ。・・・それに・・。」
「それに・・なんだい?」
「俺も、あいつを部下として扱えるか、自信はねえしな。」

「・・・・それは嘘だね。僕は、君が雛森君を部下として平等に扱えることを知っている。君自身が一番よく分かっているはずだよ。
君の理性と判断力が、それくらいのことで揺るぐことは無いはずだ。
もし問題があるのなら・・。」
「言えよ、藍染。」

「もし、問題があるのなら、それは雛森君のほうだろう。
君をまだどこかで、幼馴染みとしてみている。
彼女はまだ若い。君を上司として、見るにはまだもう少し時間がかかるかもしれないね。」
「・・・・・。」
「君はこれまで、時間を縮められることはすべて成し遂げてきたはずだ。
相当の努力をしてきたはずだし、僕はそのことについて、君を尊敬している。
問題解決に向かう君は、その処理能力とスピードにおいて飛びぬけているだろうね。
ただ・・・時間が経つのを待つしかないこともあるのではないだろうか。」
「・・・分かっている。」

「今は雛森君は君を幼馴染みとして見ているかもしれない。
だが、時間が経てばそれは変わる。
そのためには、外の隊から彼女が君を見る時間を作るべきだと、僕は考えた。だから、僕は彼女を指名したんだ。」
「・・・ああ。」

二人の目が自然に雛森のほうに向かう。それに気付いた雛森が藍染には目礼を、日番谷には手を小さく振った。
それに、穏やかな笑顔で答える藍染。

・・・・そう。あいつの反応が全てを物語っていた。
・・・・俺の下にはさせられない。

「日番谷君。少し彼女を僕に預けてみないか?
彼女が・・・もう少し大人になる時まで。
その時まで、僕が責任を持って彼女を預かろう。
これは・・・男と男の約束だ。」

二人の視線は自分の持つ酒杯に向けられている。

「藍染・・・・あいつを・・・頼む。」
その時日番谷の小さな頭が軽く下げられる。

そして二人は同時に杯に入った酒を飲み干した。

なんちゃって。

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