プライド(阿散井恋次)
・・・・失くしたくねえものなんざ、山ほどある。
ま、俺は正直欲張りな方だ。無欲だの節制だのは嫌れぇだし。
・・でも・・・もし・・・・
その殆どを失わねえといけねえっていう時は・・・。
本当に失くしたくねえものを・・俺は・・・この腕で抱きしめているだろう・・・。
一護は最初会った時から気にくわねえ奴だった。
出会って間もないはずのルキアの為に平気で命を張るってぇのが、まず気にくわねえ。
最初は弱っちかったくせに、あっという間に俺を追い越して強くなりやがった挙句に、俺の目標だった朽木隊長の上までいきやがった。それも気にくわねえ。
いわゆる大事なもんを全部守り通すっていう気概も、そんでやり遂げちまうところなんざ、もっと気にくわねえ。
抱えきれねえほど抱えてる癖に、やっちまうところは、ゼッテーゼッテー気にくわねえ。
・・・俺は、自分が弱えとは思わねえ。
死んでも思ってやんねえことにしてる。
けど・・自分がまだまだだってことは、死ぬほど思い知らされてる。
大事なものは山ほどある。
必死で頑張ってなった副隊長の座も大事だし、トレードマークの額になんかを巻く事も大事だし、大枚はたいて買ったバイザーだって大事だ。
けど・・全部が護れねえと解かってくれば・・本当に大事なものだけを護るために全力をつくすだろう。
他の全部をたとえ犠牲にしたとしても・・その大事な・・本当に大事なたった一つのものだけを護るために。
そんで、本当に大事な物ってえのは・・・俺が最後に腕の中に抱きしめてるものの事だ。
それをもし奪おうとする者がいるのなら、当然俺は戦う。
俺の背に隠して俺はそいつと戦うだろう。
・・・当然だろ?そんなこと。
でも・・戦っても勝てねえって解かったときは・・・。
俺はこの腕の中に閉じ込める。
奪われねえように・・この両手で閉じ込める。
もちろん両手はふさがれる。攻撃する事は出来ねえ。
全部・・・防御につかっちまうからな・・。
でも・・中途半端な姿勢で半分戦って半分護るよりも・・俺の性には合ってんだ。
だけどよ・・・そんな状況になった時は・・・・俺が死ぬ時だ。
俺の命がある限りは・・ぜってえ腕の中のモンは離さねえ。
足を失おうとも・・・片手を持ってかれても・・ぜってえ腕の中のものは離しゃしねえ。
俺の鼓動が聞こえるほど、強く・・・この胸に抱き留めてやる。
言っとくが、普段のときはそんなじゃねえぜ?
それが何処でどうしようと、そんなの勝手だ。
好きにすりゃあいいんだよ。
けど、いざとなったら・・それが泣こうが喚こうがぜってえ腕の中から離してやんねえ。
手を離して・・・一度イタイ目見ちまってるからな。
物事には、離さねえといけねえ時と、離しちゃいけねえ時がある。
離しちゃいけねえ時には・・・こっちも腹を括ることだ。
何があっても・・たとえ死んでも離さねえってな。
あ?そんなに強く抱きしめたら、壊れねえかって?
生きるか死ぬかの時にそんな難しいこと考えられっかよ。
そりゃまあ・・・壊れちまったら意味がねえんだけどよ・・・。
まあその・・一応気はつけることにすっから・・まあ、出来たら・・だけどよ・・・。
あ?そんな大事なモンてなんだだ?
バカかオメーは。そんなん決まってんだろうが。
・・・・・オメーだよ、オメー。
だからその時は四の五の言わずに、俺の腕の中で大人しくしといてくれよ?頼むから。
そんで俺の鼓動を・・聞いといてくれねえか。
俺が生きている間は・・ぜってえお前を護ってやる。
その鼓動を聞いといてくれ。
この背中も、この腕も・・・この命すらも最後はお前を護るために使ってやるよ。
・・・・失くしたくねえものなんざ、山ほどある。
・・でも・・・もし・・・・
その殆どを失わねえといけねえっていう時は・・・。
お前を腕に抱いているだろう。
なんせ・・・・最後に護れるものは・・この腕の中にあるものだけだからな・・・。
・・・・恥も外聞もねえ。
・・・・それが俺のプライドだ。
だから・・・大人しく抱かれといてくれ・・・。・・・頼むからよ。
なんちゃって。