プライド(檜佐木修兵)

・・・ホントに大事なもんてえのは・・・


・・・ずっと時間と手間をかけて、腕の中に残ったモノのことかも知れねえな・・。


俺は学院時代から、一応出世コースってえのに乗っかってきた。
学院でも、一応優秀だったし、死神になってからもそれなりにいい評価を受けてきたと思う。

早い段階で副隊長になったし、それからもそれなりの仕事をしてきたつもりだ。
隊長にも恵まれたと思ってる。・・いや・・思ってたって言った方が、いいのかもしれねえが。

東仙隊長は、真面目な人だった。
中には融通が利かねえって言う奴もいるが、俺が尊敬してたのにはワケがある。

・・・・あの人ほど・・・平和を望んだ人はいない。

それは今でも思ってる。
・・・戦いが嫌いな人だった。
だがその戦いを失くすためのためなら、死力を尽くして戦うという人だった。
・・優しい人だった。

だが・・・平和のために、敢えて心を鬼にして戦う。

・・・その姿勢を俺は尊敬していた。

戦いなんざ、無えほうが良いに決まってる。
戦って・・その後に一体何が残るってんだ?


「お!あれ・・あの副官証を巻いてんのって、九番隊の檜佐木副隊長じゃねえか?」
「ああ・・あれがウチの綾瀬川五席に負けたっていう副隊長か!」
「け!いい気味だぜ。うちの五席は他の隊の副隊長より強えんだ!ざまあ見やがれ。」
「あったりめえだろ?なんてったってウチの隊は『最強』なんだからよ!」
「違いねぇや!」

・・また十一番隊の奴等か。
俺には言わねえが、下のやつらも随分俺のことで、十一番隊のやつらに色々言われてんのは知ってる。

ただでさえ東仙隊長の裏切りがあったんだ。
下の奴等にも相当なストレスになってるはずだ。

・・・同じ護廷十三隊内でツブし合っても仕方ねえだろうが。
そう思って、軽く決着がついた段階で、引くはずだった。
おまけに向こうはこれば喧嘩だと言い切った。

喧嘩だったら、尚更勝負がハッキリした段階で終わらせるのがスジってもんだろうが。
だが・・・十一番隊のやつ等は違っていた。

喧嘩に命をかけると来た。

・・・・あいつを五席だっていうんで、油断してた事もある。

そして俺は負けた。
そして、この状況だ。

俺の考えが間違ってるとは思わねえが、当然勝たなきゃならねえ時に勝てなかった。
これは明らかに俺のミスだ。

・・・まだまだ俺は甘かったワケだ。


今回の件で、ダメージが大きいのはウチだけじゃねえ。
雛森んところも、吉良んところも大変なはずだ。こっちが何時までも落ち込んでるヒマは無え。

ふと気付くと、腕に付けた副官証がずり下がって来ていた。
腕に巻きつけるタイプのものだ。
只でさえ、ずり下がりやすい所に、俺の死覇装は袖が無い。
気が付けば下がってくる。

・・そういや・・今コレ付けてんのって・・俺だけじゃねえか・・?

副官証は基本的には普段の装着義務は無え。
副隊長にもなれば大抵の奴等には顔は知れてるはずだから、わざわざずり落ちやすい副官証を付ける必要なんざ、何処にも無い。

でも俺は付けてる。
腕を締め付けるこの感触が、今九番隊を任されてるのがこの俺であることの証だからだ。

俺はナリは派手かもしれねえが、中身は実は堅実なタイプだ。
着実で正確、そんで早く仕事をこなして上に上がってきた。
そこが東仙隊長ともソリが合ったところだと思う。

そうやって少しずつ腕の中に収めてきたものは・・今回ずいぶん腕から滑り落ちて行きやがった。

ま、そんなもんなのかも知れねえが。

恋次は今回、卍解を会得して朽木隊長と戦ったらしい。
卍解か・・ずいぶん派手な事をやらかしてくれるぜ。
たぶん、あいつのプライドにかけて、必死で強くなったんだろう。
あいつの大事な物を護るために。

・・俺か?
俺はまだプライドなんて言えるもんは持っちゃいねえよ。

地味に積み重ねていって・・時にゃあ、転げ落ちて・・そんでも腕の中に積み上げてったもの・・・。
それが俺のプライドになる。

俺はもう中堅と言えるのかも知れない。
だが、まだまだだ。エンドはまだ遥か彼方だろ?
急に伸びてく奴を見て、焦りを感じねえワケじゃねえ。

だが、それは俺に合った進み方じゃあ無い。
俺は俺に合ったやり方で行く。

出来る事を積み上げて。
腕からずり落ちそうになるものを巻き直して。


そんで最後に積みあがったもの。


・・それが俺の「プライド」だ。





・・・見た目ほどは派手じゃねえかもしれねえが・・・



・・・こういう男もいいもんだぜ・・?


・・でも心配すんな。お前の事は・・・




・・・ずり落ちねえようにすっから。







なんちゃって。

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