プライド(日番谷冬獅郎)
・・・「大事なもの」・・か・・・。
大概のヤツなら、手の内に入れて置きてえって思うだろう。
当然だ。
結局最後に信じられるのは・・・自分自身だからな。
・・・・だが・・俺はそうはしない。
・・・・なぜなら、俺の「大事なもの」は・・
俺の手の中に入るようなものじゃねえからだ・・・。
・・・「心」や「笑顔」・・・なんてものはな。
俺はどうやら天才っていう奴らしい。
最年少記録をどうやら片っ端から塗り替えたようだが、別にやろうと思ってやってた訳じゃねえ。
単に「大事なもの」を護れる立場になるために最短の道を探したら、たまたまそういう状況になっただけだ。
当然それなりの努力もした。
もっとも・・・そっちの方はあんまり知られてねえだろうが。
死神になる前もそしてなった今でも、俺の最大の弱点は「ガキ」であることだ。
どんなそれらしい事を言っても、何処をどう見ても『外見的にはガキ』の俺から言われれば、大抵の奴は腹が立つらしい。反発も食らう。
それを一発で黙らせるのは、圧倒的な力を見せ付けるしかねえ。
そいつらに認識させるしかねえ。『ガキ』である以上に『天才』なんだと。
『天才』という言葉は不思議なもんだ。この言葉が枕詞に付くだけで、大抵の事は納得するらしい。
ちょっとした事でいいんだ。
俺に『天才』という名札をそいつに付けさせればいい。
好きじゃねえが、大体は大人しくなる。
つまらねえことだが、重要な事だ。
下の奴らは常に思ってるはずだ。
「こんなガキに付いて大丈夫なのか?」と。
その不審と不安を無くさねえと、隊をまとめる事なんて出来ねえ。
そして、そんなことも出来ねえなら、俺は「大事なもの」を護ることなんてさらさら出来ねえだろう。
・・・・なんせ・・・
・・「護りたいもの」の持ち主は俺の隊の外にあるからな・・。
・・・その持ち主が一番望む事は俺の隊にいることじゃねえ。
なら俺はそれを見守るだけだ。
・・もし何かが起こったときに直ぐに手を差し伸べられるように・・。
そして何かが起こらねえように、先回りするくらいのものだろう。
「ガキ」なら素直に手の内に入れちまえというヤツもいるかもしれねえ。
だが・・それじゃあダメだ。
「大事なもの」は持ち主が真に納得する状況でなければ、真の意味を持たないからだ。
・・そのためにも・・「ガキ」なんかじゃ護れねえ。
普通のヤツの何倍もの観察眼も、判断力も、そして精神力が必要だ。
それこそ、ガキであることを上回るほどのものが。
「ガキは熱くなり易い」ていうのを聞くが、確かにその通りかもしれない。
俺も本当は熱くなりやすい性格だ。
そんな「熱さ」がガキの表れなら・・・理性の氷気で冷やしてやる。
炎の激情さえも、上回るような氷の理性を持ってやる。
氷系の斬魄刀を持ってるヤツていうのは、本当は根は熱い。
熱い気持ちを制御するために、氷雪の理性が生まれてくる。
・・出来る限りの事はやってやる。
だから・・・お前は幸せで居てくれ。
そして、どうか笑っていてくれ。
・・お前の笑顔が失われようとする時は・・・
・・天空に、氷の龍が座すだろう。
・・氷の華を散らせながら。
・・そして怒りさえも凍気に変えて。
・・その龍は俺の覚悟。
・・そして俺のプライドでもある。
・・願わくば・・・
・・その氷が溶ける時には・・・
・・お前の笑顔の華が咲いてりゃいいんだが・・・。
・・ま、出来たら・・だけどな。
なんちゃって。