プライス・レス(朽木白哉)

ごく一部の限られたものにしか身につけることが許されないものがある。
その中の一つが・・「牽星管(けんせいかん)」と言われるものだ。

この髪飾りは、上流貴族の証である。
またその本数が増えるほど、位が上であることを指し示す。
朽木家第二十八代当主である、白哉が身につけるのは計5本。

・・・正一位の称号を現している。


当然に幾人もの使用人を抱える白哉だが、自分で出向かねばならぬ用もある。

一つが、歴代当主が身につける「銀白風花紗(ぎんぱくかざはなのうすぎぬ)」を定期的に作家である辻代家において、洗浄作業を申し付けること。

もう一つが、牽星管を王族御用達である宝飾店にて定期的に研磨などの保守点検を申し付けることである。

自ら出向くには訳がある。
貴族の証であるこれらのものを、保守点検中とは言え、身につけてない様を他人に見られることを恥と考えているからだ。

ちなみに予備は作らないのが貴族の常識だ。
朽木家が、尸魂界にただ一つであるように、その身につけるものも代わりがあってはならぬ。
そう、考えられているからだ。

襟巻きの方は、洗浄及びその乾燥時間があるため、白哉は辻代家に泊まることもある。
辻代家はそのための離れまで用意している。

だが、牽星箝を磨く程度であれば、少し待てば出来上がるため、白哉は超高級装飾品の展示室を兼ねた、個室で待つのが常だった。


何時ものように、椅子に腰掛け待つ白哉の目にふと留まったものがある。
ガラスで出来たショーケースの中の白い櫛だ。

技術の粋を駆使した豪華な細工が目立つ品々の中で、その櫛だけが質素とも言えるシンプルな装飾をされていた。

席を立ち、思わず見入る白哉。
透き通るほどに白い櫛だ。
鼈甲のようだが、これほど白いものは白哉は見たことがない。
その櫛にごく小さく桔梗の花が象嵌細工で表されている。


清楚。
そう、表現するのが最もふさわしいように思えた。



その時、白哉の脳裏に一人の少女の顔が浮かぶ。

「失礼します。お茶の替えをお持ちいたしました。」
部屋に入ってきたのは、この店の主人の奥方だ。
珍しく白哉がケースの中の物を見ていることに、内心驚きながらも顔色一つ変えずに、新しい茶を差し替えた。

「牽星管のほうは後半刻ほどで出来上がると、申しておりました。
今しばらくお待ちくださいませ。」

「すまぬな。」
「なにかお気に召したものでもございましたか?」
奥方がさりげなく問う。

「この櫛だが・・・鼈甲か?鼈甲にしては色がかなり違うようだが・・・。」

「この櫛でございますね?確かに鼈甲でございます。白甲はございますが、ここまで透き通るような白いものは大変珍しゅうこざいまして・・。
主人が、この甲には華美な装飾はふさわしくないと、このようにしつらえましてございます。」

「・・なるほど。主人の言うとおりだな・・。」

「ケースからお出しいたしましょうか?」
「・・・いや・・・・。いや・・・やはり頼もう。」

ケースから出された櫛は、けっして目立ちはしないが、清楚な輝きを放っている。
『・・緋真。』
何故か白哉は、これを身につけた緋真を見たいと思った。

この部屋には他にも豪華な細工がなされた櫛は何本もある。
しかし、緋真に似合うのはこの櫛だ。


「・・・これを貰おうか。」
「かしこまりました。・・・ご贈答用にお包みしますか・・?」
誰にあげるのか、などと余計なことは聞かないのが、一流店の掟だ。
しかしながら、客の状況を推察しながら、サービスを提供せねばならない。

「いや・・いい。そのままで構わぬ。」
「・・それでしたら・・。」

と、紫の袱紗(ふくさ)にはさみ、白哉の方へ手渡した。
これならば目立たぬし、白哉が持っていてもおかしくはない。

「・・・礼を言う。ではこれで。」

支払いに出したのは、利用限度額無しのブラックのクレジットカードだ。



代金が幾らなのかも聞かぬ。
幾らであろうが、払えるからだ。





白鼈甲の櫛。代金80万環。


紫の袱紗。 奥方のサービス。





・・・・そして・・・




緋真への想い。 プライス・レス(値段が付けられない、という意)。







なんちゃって。

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