虚夜宮の新年(藍染惣右介)

虚夜宮の年明けは、大晦日からのカウントダウンから始まる。

中央の中庭には破面が一同に集まり、年が替わるのを待ち受ける。
そして、新年の時報と共に、祝砲代わりの虚閃が空に向かって一斉に放たれる。
昼のない虚圏が、多くの虚閃の光により一瞬でも昼のように明るくなる瞬間だ。

そして、城のバルコニーから現れる藍染が破面に向かって言葉を与えるのが通例となっていた。

「・・・Feliz Ano Novo。←スペイン語であけましておめでとうの意味
新しい年を同胞たる諸君と迎えられ、私も嬉しく思っている。

今年は、いよいよ時が満ち我々が飛躍する年となるだろう。
君たちの存在が、尺魂界に衝撃と恐怖を与えるものとなることを私は確信している。

そして、私と共に歩むのだ。
更なる高みへと。

私と共に歩む限り、恐れるものは何もない。
栄光は常に君たちと共にあるのだから。

今年こそは・・その栄光の幕開けとなるだろう。
諸君、勝利は君たちと共にある。」

大歓声が木霊する。
並み居る破面に軽く手を振り、城の中に入る藍染。
中では、ギンがその様子を眺めていた。

「何時もながら、ヒトの心掴むんがお上手ですなあ。ホンマ感心しますわ。」
褒めているようでいて、全くそのように見えない喋り方は、どうやら新年になっても健在なようだ。
「あれくらいならお前でも出来る範囲だ。いちいち賞賛するほどの事ではないだろう。」
「そんなことないですよ。
大体ボクはあんまり言うた事、信用してくれへんし。
やっぱ、人徳なんやろか。」
「それはお前が露悪的な言動を取っているからだ。・・・わざとにね。」

「イヤヤなあ。露悪的やなんて。せめてミステリアスとか言うてくださいよ。
女の子いうんは、ミステリアスな男が好き言いますやろ?」
「その割には、扱い様はよくない様だが?」
「ボク、可愛い子をいじめてまう癖が、どうしてもぬけへんのですわ。
ホンマ困ったもんですなァ。」

明らかにギンの戯言だ。唇の端を僅かに上げる藍染。
外では未だ祝砲代わりの虚閃が打ち上げられている。
視線を外に向ければ、ギンも釣られて外を見る。

「やれやれ。そんなに年が替わる言うんは喜ぶことなんかなァ。
死神も破面も何がそんなに嬉しいんやろか。」
素直な感想を漏らす。

「・・あれは祝っているのではないよ。」と藍染が答えた。
「じゃ、何してますのん?」
「祈りの儀式さ。彼らなりのね。」
「何をお祈りすることがありますのん?あの子ら。」

「今年こそは、恐怖のない年になるようにと、祝う事で祈っているんだ。」
「あの子ら全員がですか?」
「そうなるね。」
「ウルキオラでもお祈りしてるんやろか。なんやあの子、石みたいやし感情や無さそうやけど。」

「ウルキオラにも感情はあるさ。須らく彼らには感情が存在する。」
「ホンマですか?そやかてあの子の顔色変わったのや見たこと無いんですけど。」
「出来るだけ感情を殺しているからね。見えにくい事は確かだ。
だが、感情がない訳じゃない。」
「なんでですか?」
「虚は恐怖から生まれてくるだろう?」
「そうですね。」
「”恐怖”とは・・立派な感情の一つだ。
しかもかなり強い感情だ。

感情から生まれた彼らが感情を持たないことなど、ありえないんだよ。
ウルキオラは、恐怖から逃れるために感情を殺すという選択をしたに過ぎない。
だが、感情そのものから逃れられることなどないんだよ。

どれほど、強力な破面であろうとも、逃れることなどありはしない。

・・そう、感情・・つまり恐怖からはね。」

「そやかて、”怖れることはない”て何時も言うてはるやないですか。」
「それを彼らが望むからだ。望んだ言葉をかけてやり、彼らに希望を与えるのは悪いことではないと思うが?」

「悪いですよ。藍染さんが、やけど。」
「今年は忙しくなるだろう。お前にも重要な役割をしてもらうことになる。
・・いいね?」
「筋書きは面白くしてくださいよ?
折角の大舞台になるんやし。」

「努力しよう。」
「藍染さんも祈る事ってありますのん?」
「どうかな。だが、お前の”楽しい一年になりますように”程度のものならあるさ。

・・それに私は感情そのものを否定しているわけではないよ?
感情あってこそ、個性は生まれるものだからね。」

そんな藍染にギンがニヤリと笑って言う。
「実はボクにも怖いモンがあるんですけど。」

「・・”退屈”だろう?」

藍染が言った途端、わざとらしくギンが震えてみせる。
「考えただけで寒なりますわ。
ボクが怖い思いせえへんよう、一つ今年も宜しゅうお願いしますわ。」

「・・・・『私と共に歩む限り、怖れるものは何もない』と言って欲しいかい?」

すると藍染の副官はこう答えた。

「それは遠慮しときます。」



虚閃は未だに打ち上げられている。

そして、新たな新年が始まった。





なんちゃって。

inserted by FC2 system