理想の距離(黒崎一護)


・・まァ、たとえばの話だけどよ。
転んじまったオマエの前に手が差し出されたとする。


・・オマエなら・・どうする?

素直に手を取って立ち上がるか?
それとも、「一人で立てるから。」って断るか?

手を取るかどうかは二つに一つしかねえ。

けど実際のところ、一人で立っちまう奴の方が多いんじゃねえかな。

大体、ガキのころじゃあるまいし、他人と手ェ繋ぐなんて事無くね?
知ってる奴が転んでも、「大丈夫か?」って声はかけっけど、手を実際差し出す奴ってのは、あんま居ねえらしい。
なんつーか、テレるんだろ?俺はその辺よく分からねえけど。

つーか、出された方もテレるとか聞いたことがある。
石田とかは、なんでか分かんねえけど、必ず怒る。

「僕がこの程度で、人の手を借りなければならないほどダメージがあると、本気で君は思っているのか?」

とかなんとか言ってたような。
見りゃわかるって。一人で立てるのは。
チャドや恋次なら普通に「サンキュ」で終わるのによ。
何でそんなに怒るんだ?

お前の周りにも・・・こんな奴いねえ?

石田は滅却師だからかなんだかは知んねえけど、他人の力を借りるのが、極端に嫌いだ。
他人の手を借りるのが、滅却師の誇りとやらにかけて気に入らねえらしい。

つーか、俺はその態度の方が気に入らねえけどな。イヤ、マジで。
大体、何でそんなにイヤがんだ?

もしかして、何でも一人でやんねえとって思ってやがんのか?
出された手を離したくなくなっちまうのが怖くなるのか?
それとも、一度でも他人の手を借りちまうと、二度と立ち上がれなくなる気がして怖くなるのか?

・・・そんな深く考えるなよ。

出された手は、オマエが一人じゃないって証拠だ。
誰もお前の能力を疑ってるわけでも、バカにしてるわけでもねえよ。

その手は、お前の仲間は直ぐ近くにいるんだぜ?っていう証しだ。

皆ひとそれぞれで、それぞれの環境、それぞれの体力、それぞれの能力を持ってる。
人はみんな違うけど、自分の力で必死に立とうと頑張ってる。
けど、色んな事があって、倒れこみそうになるもんだろ?
まあ・・・俺は、しょっちゅう倒れこんでっけどよ。

・・・あ、今オマエ笑っただろ。ウソつけ!何だ、そんなニヤケた口しやがって!!
・・ったく・・。

けど、大なり小なり皆、同じように倒れ込みそうになって、必死でそれでも立とうとしてる。
その時出される手ってのは、そんなお前を誰かが見守ってくれてるって証拠なんだよ。

ホラ、ガキでも転んで一人だと泣くけど、誰か見てると泣かずに立ち上がるヤツいるだろ?
結局泣こうが泣くまいが、そのガキが立つことには変わらねえかもしれねえけど、そいつにとっては後後泣かずに立ったことを自慢できる時が来るもんだ。

自分が見られてるってことが強くする。

そんで、その見てる奴が自分の仲間だったら、もっと強くなれるだろ?
出された手は、傍に仲間がいるって証しだ。
オマエは一人ぼっちで立ってるわけじゃねえ。
一人で立てなくなたら、いつでも仲間が支えてやれる。

そんな場所でオマエが立ってる証拠なんだよ。


実際に出された手を取るかどうかはオマエ次第だ。
どっちでもいいじゃねえか。
ただ、お前は一人ぼっちなんかじゃなくて、いつでも仲間が手を差し伸べてくれる所に居る。
そう思ってりゃいいじゃねか。


けど、分かってても本当は自分が一人なんじゃないかと思っちまうようなその時は・・・。

・・ホラ、手ェ貸せよ。
居るだろ?俺が。
頭で解ってても、本当に手で触れて納得する時だってあるさ。
そんなもんは理屈なんてもんじゃねえと思う。



・・・俺はオマエが一人で立てることを知っている。

・・・だから、離れて立っている。

・・・お前にその能力がある事を知ってっからだ。



けど、なんか会った時には、手を貸せる距離。

・・・・それって、理想の距離だと思わねえか?






なんちゃって。



・・久々ですが、一護のファンに捧ぐ。

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