ローラースルーゴーゴー(一角とやちる)

「つるりんは、あたしに何をくれるの?」
「は?何のことだ?」

2月12日の事だ。
やちるが朝真っ先に一角を見て言った言葉である。

「あたしのたんじょうびプレゼント!!」
と、にっこり笑って両手を差し出す様は、可愛い以外の何者でも無い。

・・もっとも・・・この無邪気な子供が栄えある護廷十三隊の副隊長を務めていると思わなければ・・だが。

「バカか、てめえは。今更誕生日も何もねえだろうが。
大体なんでおれがてめえの誕生日プレゼントなんてやらねえと・・・って、いってえ〜〜!!

な〜〜〜に俺のアタマに噛み付いてるんだ、くそチビが〜〜!
離せ!!離せっての!!イテテテテ!!
歯が食い込んでる!!メッチャ食い込んでやがるぞ、てめえ!!



分かった!何かやりゃあ良いんだろ?!何か作ってやっから!!
だから離せてめえ〜〜!・・ってあっさり剥がれやがって・・・。」

「うわ〜〜い!!やった〜〜!!!」
勝利の喜びに走り回るやちるに、右手の拳をプルプルさせる一角が居た。


・そして・頭にしっかりくっきり子供の歯型が付いた一角とやちる←(一角に勝手についてきた)の向かった先には技術開発局だった。
「つるりん、ここで何するの?」
「何か作れってんなら、ここが一番器具と素材揃ってっからな。
知り合いもいるしよ。だからだ。」
「ふうん。」

そして開発局の中に入ると、「おい、阿近はいるか?」と人を呼ぶ。
「何だ、一角じゃねえか。なんだ。こんな所まで。」
「ちょっと器具と資材借りるぜ?」
「ああ。構いやしねえけど。何するつもりなんだ?」
「ガキのおもちゃを作るんだよ。
うちの副隊長仕様のな。生意気にも誕生日になんか寄越せって言いやがった。」

「そりゃまた気の毒なことだな。頭の歯型もその所為か。
まあいい。好きに使いな。」
「おう。」

そして、一角が取ってきたのは、鉄パイプや鉄板、小さな車輪、そしてネジ。鉄パイプを切断、溶接するのだろう工具である。

「何作るの?」
期待に目がキラキラしたやちるが一角に問う。
「言ったら面白くねえだろうが。てめえは大人しく黙って待ってな。」

そして、一角が鉄パイプを切断したり溶接する作業を飽きもせずじっと楽しそうに見ている。

「・・おい。心配しなくてもちゃんと作ってやるから、別に見てなくても良いぜ?」
一角が言うと、
「ううん?楽しいよ。だって、只のガラクタにしか見えなかったものが、すんごい物になっていくんだもん。」

やちるは不思議でたまらないらしい。
ただのガラクタ同然の物が、人の手によって形作られていくのが。

しかし、横でうずくまって見ている内に、上の目蓋と下の目蓋がいつしか仲良くなってきて、膝の上に頭が乗っかるようになっていた。

「・・おい。こんな所で寝るんじゃねえ。おきろ。」
一角の呼びかけにも、目を覚ます気配は無い。
金属を工具で切る音の中でよくもまあ、眠れるものだと感心しつつ作業を進める。

9割以上出来上がった段階で、一角は完成間近のおもちゃの具合を確かめていた。
車輪の部分をしきりに回している。

「もう出来上がってんのか。早ええな。」
阿近が様子を見に来た。
「・・いや・・もうちょっとなんだけどよ。」
また車輪を回している。
「何やってんだ?」
「いや・・車輪の回りが気にいらねえんだけどよ。回りがイマイチ悪いんだよな。」

「軸もっと細くしてみりゃどうだ」
「そうしてえのはヤマヤマなんだけどよ。一応こんなドチビで副隊長だからな。
細くして強度が下がると1日でブッ壊されちまう。」
「なるほど。じゃあ、これ使ってみっか?」

阿近が出したのは、強度が2倍になるという軸の素材だ。
「うちで作ってる素材だ。結構使えるぜ?」
「サンキュ。」

さっそく軸の部分の改良を始める一角。

こういう、何かを作っているときの一角は楽しそうだ。
昔からそうだった。

「・・なんか・・思い出すな。学院時代のお前を。」
阿近が懐かしそうに言う。
「あの頃が一番色々作ってたからな。」

死神になってからも、任務で行った現世でみたバイクを、尸魂界で再現しようとした一角と阿近。
見事に再現したのは良いものの、エンジン部分の馬力を間違え、試運転の際、学院中を大暴走した上に、山じいにこってり叱られて、1週間の謹慎処分を喰らったことがある。

「・・よし。これでいいか。」
改良を施された、車輪部分は軽く回すだけで流れるように何時までも回転している。

「おい!出来たぞ、ドチビ!!おきろ!!」
「う〜〜ん、できたの?

わああ!!すごい!!」

出来たのは片足で地面を蹴って進む二輪車だ。
「なんて言うの?これ!!」
「ローラースルーゴーゴー。」
「わ〜〜すごい〜〜!」

仕様説明も聞かずに遊び始めるやちる。
天才的にこういう時の子供は、説明書などを見なくても、どう遊ぶのか分かってしまう。

しかし、狭い技術開発局の中では充分遊べない。
つるちん、外であそぼ!!

外に出たやちる、早速ローラースルーに足をかけた。
「オイ。言っとくがこんな地面で思い切り蹴るなよ?コケるからな・・・ってもうコケてんじゃねえ!!コルァ〜〜!」

デコボコした地面の上で、思い切りローラースルーで進もうとしたやちる。
見事に額ごと前のめりでコケていっていた。
「いったあ〜〜。じゃどんなトコならいいの?つるりん。」
「デコボコがない広い所だ。廊下とかああいうところが一番いいんだけどよ。
滑れるような広い廊下なんざ、思い当たるフシはねえし。

「長い廊下だね?!分かった!!」
ローラースルーを抱えて駆け出したやちるの、足がピタリとなぜか止まり、一角の方を振り向いた。
「そういや、つるりんて前にも作ってもらったけど・・。
どうして自分で作るの?」

素朴な疑問だ。
「買ったモンや人に頼んだモンは、他に同じモノを持ってるやつが居るってことだろ?
本当に自分だけのオリジナルが欲しけりゃ自分で作るのが一番なのさ。

たから、それも同じものは誰も持っちゃいねえ。
ま、誕生日だからな。たまにゃいいだろう。」


「うん!つるりん!!」「何だ?」

「ありがとう!!大事にするね!!」

「おう。」

飛び切りの無邪気な笑顔を残して、やちるは何処かへと駆け出していった。
・・無論、その先は長大な廊下を持つ例の邸なのだが・・・。

そして、1時間後には・・・・
朽木邸にガガ〜〜〜!!!という音が響く事になる。
瞬歩を繰り出す足で、ローラースケートゴーゴーを走らせるやちる。←注)無論大事に使っているつもり。


「すんごいすべり」に酔いしれていた。



ちなみに・・・やちるは、ちゃんと一角のお誕生日11月9日にお返しをする。

商品名「フクピカ」

最強のフクピカ!!ここに誕生!!フクピカ超撥水 20061225祭5


無論、一角は頭を怒りでピカピカさせながら怒るに違いない。




なんちゃって。

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