老闘神の子どもたち(山本元柳斎重國)

 

2000年以上も昔のことだ。
死神と言われる職業には、単に能力のある者が就いていた。
しかし、系統だった教育を何一つ受けていなかった彼らは、志半ばで倒れる者も多く、その頃より既に増加しつつあるあったホロウの襲撃に頭を悩ませていた。


真央霊術院。
2千年を誇る歴史を持ち、鬼道衆、隠密機動、そして護廷十三隊に所属する若者たちを育成する学院である。

その創設者は山本元柳斎重國。
護廷十三隊、一番隊隊長にして護廷十三隊を統括する者だ。
歴戦の勇者にして、彼のことを闘神と呼ぶ者もいる。

山本は、2000年前の段階で、現世における人口が、今後急激に増加することを見抜いていた。
2000年前の世界人口は、およそ3億人。そして2000年後の現在は59億人。
2000年の間に20倍になったわけだ。そしてその加速スピードは、今現在もさらに速まっている。

人口が増加すれば、当然ホロウも増加する。
ホロウが増加すれば、強力なヒュージホロウへと進化する可能性も高い。
当時の死神の数はまだ少なく、すでにそのときの死神たちに負担が生じていた。

ホロウを葬る死神たちが、今後、質、量共に大幅に不足してくると考えた山本は、死神を育てる学院の必要性を強く上層部に唱え、そして了承される。
そして真央霊術院は初代院長に山本を据え、その長い歴史をスタートさせることとなった。

開設当初は、山本が陣頭指揮に当たり、ほとんどの基本的システムを立ち上げた。
それだけではなく、実際に生徒たちに己の剣を見せることにより、技だけではなく、死神としての心構えも同時に説いた。
現在では、山本は学院からは離れ、後進の者に任せているが、山本の教えは学院の芯の部分に深く息づいている。

「己の正義を、いかなる障害があろうとも貫くべし。そして己の技を磨き、精神を鍛えることにより、正義をなせる力を絶えず高めんことを忘れるなかれ。」

そして、学院から初めて隊長になったのが、浮竹と京楽だ。
彼らが、未熟だった頃からその才能を見抜き、自ら手塩にかけて育てていただけに、山本の喜びは大きかった。
隊長就任式の際、この二人に隊長の羽織を渡す山本の目頭が熱くなりそうだったことを、山本は未だに昨日のことのように覚えている。

この二人の隊長就任を皮切りに、学院出身の隊長、副隊長が続々と就任。
今や、死神になるために学院を卒業することは、常識となっている。

山本の読みどおり、現世の人口増加に従い、ホロウは数、質共に深刻さを増し、今日も学院出身の死神たちが、今もどこかで戦っている。

山本自身も、老いたとはいえ、その剣の冴えは未だ衰えることを知らず、護廷十三隊の長を務めている。

上層部は、彼の功績をたたえ、平民だった彼を貴族の列に据えることを決定した。
平民と貴族の最も大きな違いは、子孫を残せることだ。
山本自身の能力を、一代限りで途切れさせることを惜しいと思った、上層部の意図もあったに違いない。
しかし、山本はこれを固辞する。

その理由を聞かれた彼はこう答えた。
「今更、子をなそうなどとは思いませぬ。なにせ、私ほど子を持っておる者はおりませぬのでな。学院の全ての生徒及び、卒業生が私の子供たちでございまする。」

隊首回。13人の隊長が一同に集まる。
山本は集まった者たちを見渡した。
更木剣八と朽木白哉以外は、皆彼の子供たちだ。

『隊長だけでもこれだけの子がわしにはおるのだ。
一体これ以上の事を望むであろうか。・・・わしは幸せ者じゃのう。』

引退すれば、学院に戻って欲しいという話もある。
しかし、それはないだろう。
自分が死ぬ特は、死神として死ぬ時だ。
悪いが、それまでは一番隊長として、己の子供たちを見ていたい。
愛すべき、老闘神の子供たちを。


真央霊術院。
今日も死神の卵たちが、死神を目指して一心不乱に技を磨く。
もちろん、彼らも山本の愛すべき子供たちだ。


なんちゃって。


・・・・おまけ。

貴族の話を固辞した山本。座を辞した彼は珍しく憤慨していた。
固辞した理由をこう言われたからだ。
「どうした、山本よ。流石に『あっちのほう』は衰えたか。」

馬鹿にするではないわ。この山本元柳斎重國に衰えなど無いわい。
無論、『あっちのほう』も然り。


・・・山本元柳斎重國。
あくまで現役を貫く男だった。

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