流浪の士(日番谷冬獅郎)

『・・なん・・だと・・?』

不覚にも脇腹を刺し抜かれたとき・・俺は一瞬思考が停止するほどの衝撃を受けていた。
脇腹をやられたことにじゃねえ。
俺を驚かせたのは、刺された斬魄刀が・・・「氷輪丸」であったということだった。

俺の斬魄刀、氷輪丸。だが、俺を刺した斬魄刀もまた紛れもなく「氷輪丸」だった。
『まさか・・。』
現実的であるはずの俺がその事実を一瞬疑った。
そして俺の疑問を霧散させたのは、賊の声だった。

「・・久しぶりだな。」
懐かしい声。記憶にある声よりも幾分冷たさを帯びてはいたが、確かに俺はこの声を知っていた。
・・・瀞霊廷の秘宝、「王印」を狙った正体不明の賊。
そんな大罪を犯す事などとは、天地が裂けても無縁だった男の声だ。
何かの間違いであってくれと最後の望みをかけて確かめようとする。

「顔を・・!見せろ・・!!」

伸ばした手は空を切り、賊は含みを持たせて姿を消した。
王印もおそらく手にしているはずだ。

『・・俺を追って来てみろ。』
微かに残る氷輪丸の痕跡。これは誘いだ。俺をおびき出そうとしている。

・・・草冠なのか・・?お前なのか?!
死んだはずだった。いや、殺されたと言った方が正確だろう。
一度隊に戻って、生死を調べた方がいいのか?

・・いや・・・調べただろう。もうずっと前に。
一縷の望みをかけて調べ、絶望に終わった筈だ。
尸魂界にはあれ以上の記録はない。これは確かだ。

「隊長!!!」
・・松本が呼ぶ声がした。


傷からは氷輪丸の冷気が伝わってくる。

これ以上確信すべき、証拠はない。・・あの男は・・草冠だ。

正義感の強い男だった。
優秀な死神になるはずの男だった。

俺の・・・霊術院時代、ただ一人の友達と言える男だった。

そのお前を・・こんな大罪を犯すほど歪ませてしまったのは・・俺だ。
止めなければ。一刻も早く。

「隊長!!!」
俺の異変に気がついたのか、松本の声が荒くなる。

・・・・戻れねえ。
尸魂界は一度草冠を殺した。非条理にだ。
その一員である、十番隊隊長として俺は草冠とは会えねえ。

これは・・俺の・・日番谷冬獅郎の戦いだ。

戻らねえことで、松本に迷惑がかかるのは予想できた。
すまない。心の中で呟いて、その場から消えた。


草冠をとめるまでは隊には戻れねえ。
恐らく、俺にも追手が放たれるはずだ。
だが、捕まるわけにはいかねえ。

傷は思ったより深かった。
だが・・草冠はもっと酷かった筈だ。

僅かな霊圧を探る。
氷輪丸の霊圧を。


・・・待ってるんだろう?草冠。
俺がお前に会いに行くのを。

・・行くさ。どんなことがあっても行ってやる。


・・この苦しみはお前が負っただろう苦しみ。
お前と同じ所へ行ってやる。


・・・たとえ俺も逆賊として扱われようとも。



・・・待っていろ、草冠。







なんちゃって。



inserted by FC2 system