龍の咆哮(日番谷冬獅郎)
・・俺は今まで、本当に怒りを感じたことはなかったんだと思う。
初めて知ったぜ。
人間、本気で怒りを感じる時は、熱くなるんじゃねえ。
・・・冷えるもんだってことをな。
藍染・・・。
雛森があんなにも憧れる男。
同じ隊に入りたくて、必死で努力するほどの男。
雛森を信じていなかったわけじゃねえ。
だが俺は、この目で見るまで安心は出来なかった。
雛森はいい奴だが、突っ込んじまう性格だからな。
もしもという時もあると思ったからだった。
そしてはじめて見たあいつは・・・俺と正反対の男だった。
長身の成熟した男。
大人でなければ身につけられない包容力。
めったなことでは、感情を乱さない、穏やかな精神力。
顔には何時も穏やかな笑みをたたえ、見る者までも落ち着かせてしまう。
・・大人の男だった。
能力なら、誰にも負けるつもりはねえ。
だが、時を経なければ持ちえない物。
俺がどんなに努力しても、直ぐに手に入れることが出来ない物。
それをあいつは持っていた。
・・悔しかった。
今まで、年の差など物ともせず、上がってきた俺だ。
だがこの時ばかりは、自分がガキだということを思い知らされた。
そして話してみて決めた。
雛森をこいつに預けよう、てな。
藍染は俺がガキであることにコンプレックスがあることを、知っているはずだった。
他の隊長のやつらはあからさまに、俺をガキ扱いしていたが、藍染だけは他の隊長と態度を全く変えなかった。
俺も何時しか、藍染を信じるようになっていた。
そして心の中で思っていた。
俺はまだガキだ。
成長しても、俺は藍染みてえにはなれねえだろう。
・・だが・・、藍染の上を行く様な男に絶対なってやる、と。
・・・雛森を護りたかった。
どんな事をしても護るつもりだった。
そのために俺は努力してきたといってもいい。
・・・だが・・・。
・・・俺は。
・・・護れなかった。
信じていた者に裏切られるということは、キツイ事だっていうのは知っていた。
だが、それがこんな形で俺に降ってくるとは思ってもいなかった。
雛森を殺したのは・・・。
俺が今まで信じていた、・・藍染だった。
藍染は別人だった。
俺の知っている男では最早なかった。
いや違う。
俺の知っている藍染なぞ、最初からいなかったんだ。
皆も・・俺も裏切ってやがったのか・・。
・・・だが。
・・・俺を裏切ったなんてのはどうでもいい。
雛森を・・・・。
雛森を裏切ったことだけは・・許せねえ。
本当に怒りを感じる時は冷えてくるもんだ。
だからこそ、俺の斬魄刀は氷系なのかもしれねえ。
・・・許せねえ。
殺す・・・てめえだけは絶対・・・。
清浄塔居林が、一瞬にして氷に包まれる。
凍てつく怒り。
全てのものを凍つく棺に閉じ込める。
その中心には龍がいる。
全ての怒りは凍てつく冷気に変わり、龍の新たな力となる。
氷に覆われた美しき龍。
その咆哮は、悲しみを滲ませながらも強い意思を持っていた。
なんちゃって。