さらば、美しき日々(市丸ギン)

・・冬、落葉樹はすべからく葉を落とし、その枝を寒風に揺らす頃・・・。

三番隊隊舎に、無敵の2名が攻めてくる。

一人は、十一番隊副隊長、草鹿やちる。
護廷十三隊広しと言えど、総隊長の山本に小遣いをせびり、大貴族の当主、朽木白哉を「びゃっくん」と呼べる事の出来る者は、やちるしかいない。

もう一人は、十番隊副隊長、松本乱菊。
あの妖艶な肢体だけで、男性死神とっては無敵なのであるが、その上傍若無人と気まぐれと強引の文字が付け加わるのだ。文句なしに無敵だろう。

それを迎え撃つは、三番隊副隊長吉良イヅル・・は、残念ながら最初から白旗のようだ。本丸の位置まで教えてやるほどの協力ぶりである。

そして、本丸はと言うと・・・。
「おや、乱菊にやちるちゃんやん。いらっしゃい。
そろそろ来るやろ、て思てたところや。」

これまた、侵略者に対し、友好的であった。
「そろそろアレが出来てるころかと思って、来てみたの。
出来てる?」
「ギンギン〜!干し柿ちょうだい!」

ギンが趣味で作っている干し柿・・。
その干し柿を狙ってやってきたのである。

「あげたいんやけど、今年は干し加減がなかなか進まへんでなァ。
あと、10日くらいかかりそうなんやけど。

味見してみる?ホラ。」
と、ギンが出来かけの干し柿を一つ、乱菊の口に持っていこうとすると、その干し柿を横合いからさらっていく影一つ。
「あ!やちる!!!それ、あたしのなんだからね?!」
「もう、口つけちゃったもーん!」
「ほら、返しなさいよ!」
「はぐ〜〜!」

・・・・誇りある護廷十三隊の副隊長同士による、干し柿をめぐる、低俗な戦いの幕開けである。(笑)
「二人とも喧嘩したら、アカンよ?
ホラ、もうひとつあげるから。それで、あいこやろ?」

争いを見るのは好きだが、隊を壊されてはたまらない。ギンが止めに入る。
「あら、ホントにちょっとまだ半ナマねえ。」
今度はちゃんと味見をした乱菊が、感想を述べた。
「完全に出来たら、持ってってあげるし。」
「約束どおり、いつもの量よ?いいわね?」
「ハイハイ。乱菊の胸いっぱいやろ?解ってるよ。」

腹いっぱいではなく、胸いっぱいの干し柿とは、一体・・。

乱菊は大食いだ。あれだけのおっぱいを維持するために必要なのか、喰うからこそ、おっぱいが大きくなったのかは解らないが、大食いである。
好物の干し柿ともなれば、当然いつもよりも余計に喰う。
干し柿が作るのに時間のかかるものだ。そうそう大量に作れるものでもない。
当然、やちるも、干し柿を狙ってやってくる。

自分の干し柿を死守したいギンと、沢山食べたい乱菊が、引き渡す量について、昔取り決めをしたのである。
乱菊に渡す干し柿の量は、乱菊の胸に挟まる程度まで。
それが、引き渡す量である。言うたら、干し柿のつかみ取りを乳でやるわけだ。
量を確保しつつも、ギンの巨乳好きを満足させる、ある意味ナイスな提案とも言える。

「じゃ、今日はこれだけー?やちる、お腹すいた。」
今日のおやつは干し柿に決めていたやちる、あてが外れて、ご機嫌が悪くなった。ふと見ると、三番隊の中庭には、落ちた柿の葉で敷き詰められていた。

「そうだ!ギンギン!!焚火やろうよ!!
そんで、焼き芋やろう!!!」

風が弱く、確かに焚き火日和である。
そして、急きょ焚火をすることになった。

焼き芋といっても、出来あがるには時間がかかる。
たき火が下火になってから、ようやく芋を灰の中に放りこみ、出来あがるのを待つ。でなけでば、芋が炭になるだけだ。

やちるは大喜びで走り回っている。
「あたし、焼けるまでちょっと遊んでくる!」との言葉通りだ。
その間、乱菊とギンは縁側に腰掛けながら焚火を何とはなしに眺めている。

「久しぶりやねえ。芋焼けるんこうやって待つのも。
昔はようやったもんや。」
懐かしそうに言うギンに対し、乱菊が冷たく言った。
「・・よく平気でそんな事思い出せるわね、アンタ。」

どうやら、自分に何も言わずに消えたギンのことを未だに根に持っているようである。
「ゴメン、ゴメン。つい思い出してもうた。」
少しも謝っているようには見えない。
「全然反省してないでしょ。」

たわいもない会話だ。

「なんや、眠なってもうた。乱菊膝貸して?」
「膝貸せって・・ちょっと!」
乱菊の許可が出る前に、乱菊の膝を枕にしてしまう。
昔からギンは甘えるのが得意だ。だが、本心で甘えているのかどうかは疑問だが。

「・・もう・・。」
そして、乱菊もそれを許してしまう所がある。他の男なら、容赦無い肘鉄がこめかみに振り落とされるはずだろう。←死ぬ。

冬のさなかだが、穏やかな日だった。
うらうらと暖かい日差し。風も弱い。
ヒヨドリの鳴く声。時々焚火の火がはぜる音。

「・・・今日はいい天気ね。」
乱菊が空を見上げて言う。
「ホンマ?ボクは黒いもんしか見えんけど。」
「黒いもの?」
膝の上のギンに目を落とそうとすると、そこには自分の胸がある。
要するにギンの上の視界は、乱菊の死覇装に覆われた乳でさえぎられているわけである。
「何も真上見なくてもいいでしょ?横向きなさいよ、横。」
「横?ハイハイ。」

膝の上でもぞもぞとギンの頭が方向を変える。

落ち葉を掃き清められた庭は、また一つの風情だ。
冬ならではの美しさがそこにはある。

「平和やなァ・・。」
静かだった。平穏ならではの静かな時間だ。
それは、とても温かな時間。そして暖かな場所。
そして、とても居心地のいい場所。


・・ずっと、居たくなってしまうような・・・。
変化ばかりを楽しむのではなく、平穏な時を望んでしまいそうになるような。


・・ギンにとっては穏やかで危険な時だった。

この時を大事にしたいと思うとともに・・大事だからこそ壊してしまいたいと思ってもいる。
ギンは自分の異常性を認識している。そして、それを認識しつつも、抑え込んでしまおうとは思っていない。
やがて、この穏やかな時も脆くも崩れさる時が来る。

そして、ギンは壊す者の一人になるだろう。


ヒヨドリがまた鳴く声がする。銀色の髪を撫でられるのが分かる。

「・・ギン?寝ちゃったの・・?」

応える声は無い。
『もうすぐ・・サヨナラ・・やなァ』
ギンの唇が僅かに動く。

しかし、乱菊にはそれは見えない。


焚火のはぜる音がした。





なんちゃって。

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