差し出す手(檜佐木修兵)
・・・・人っていうのは、そんなに強いもんじゃねえ。
強そうに見える奴も、実際のところはそうじゃない奴はゴマンといるし、普通の見える奴はもっと脆いもんだ。
・・・でも不思議なもんだな。
なんでそんな奴らが誰かの為に差し出す手っていうのは、あんなにも力強くなるんだか。
強いわけでもねえのに、差し出す手は力強い。
オマエは不思議に思ったことはないか?
『禍福は糾える縄の如し』たあよく言ったもんだ。
順調に行っていると思っていたら、思わぬ不幸がやってきたり、不幸のどん底だと思っていたら、ちょっとした事で思わぬ勇気を貰ったりする。
俺は東仙隊長の下で普通に仕事をしてきたつもりだった。
平和を愛し、その身を捧げようとする東仙隊長の姿は、俺から見ても尊敬に値する人だったと思う。
しかしある日突然、東仙隊長は裏切り者となった。
俺は全く分からなかった。
・・・ありえねえ。
あの戦いを嫌う東仙隊長が尸魂界を混乱に陥れる裏切りをするなんぞ、未だに信じれねえ。
未だに頭は混乱している。
そんな時だ。川原で吉良を見つけた。
草むらに座ってぼんやりと水面を見ている。
・・・明らかに凹んでやがる。
・・・流石に三番隊の中じゃ凹んでられねえからな・・逃げてきたか。
・・なんか昔こういうのあったような・・。
・・ああ、思い出した。俺が吉良たちに助けられた後だ。
あん時はこっちが凹んでたっけか。
その時声をかけたのは吉良だった。
立場逆転だな・・。
苦笑しながら吉良に近づく。
「何こんなところで凹んでんだ、吉良。」
声をかけられた吉良が驚いてこちらを振り向く。そしてまずい所を見られた、といった顔をした。
構わず、吉良の横に立つ。
「市丸隊長のことか?」
「・・・敵いませんね、先輩には。図星ですよ。」
「なんで気付かなかったんだろうって自分を責めてんのか?ついでにそれが出来れば諌めることも出来たのに・・てか?」
「・・・・はい。」
「そりゃ無理だ。」
「・・それは僕が力不足だということでしょうか。」
「違う。・・なんでオマエってそう自分を責めんだよ。」
そのまま俺も川原に座り込む。
「オマエくれえ、市丸隊長のために頑張ってた奴はいねえよ。そのオマエが分からなかったんだ。
誰もわかんねえって。」
「・・そうなんでしょうか。僕は・・・本当に頑張っていたんでしょうか。」
「・・ああ。俺が保障してやる。
・・・考えてみれば・・市丸隊長はオマエを巻き込みたくなかったのかもな・・。
裏切った以上は、全てが敵だ。これまでのものを全てなくしちまう。
・・
そんなのをオマエにはさせたくなかったのかもな。
・・・だから、何も悟らせなかったのかもな。」
「東仙隊長も・・そうだったんでしょうか。」
「分かんねえ。親友の狛村隊長にさえ何も言わなかったんだ。」
「・・・そうですね。」
「少なくとも今のオマエには仲間がいるだろ?
恋次もいるし、俺もいる。皆オマエのことを心配してるんだ。
助けが要るときは必ず手を貸す奴らが。
遠慮なく借りればいいのさ。」
「・・そうですね。なんだか元気が出てきました。
有難うございます、先輩。」
「礼なんていらねえよ。俺も昔オマエの手を借りてるからな。」
「え?そんなことありましたっけ?」
「そん時は俺がこの川原で凹んでた。」
「・・ああ!!そういえば。あの時、先輩凹んでたんですか?」
「ああ。オマエの言葉で元気になったっけか。」
「別に励まそうと思っていたわけではないんですが。」
「それでいいのさ。自分が凹んでいる時、誰かに心配されてるって分かるだけで大分楽になるもんだ。
そんなちょっとした差し伸べられる手で俺たちは支えあってる。」
「そうですね。」
「じゃ、行くか。なんせ俺たちは三番隊と九番隊の頭だからな、今。辛気臭せえ顔は見せられねえし。」
「そうですね?」
「それに・・・一番凹みそうな奴がまだ意識ない状態だしよ。」
「・・雛森くんですね?」
「ありゃ、相当手がいるぞ?恋次と俺では足りねえだろうな〜〜。」
「心配要りません。僕も手を貸しますよ。」
そう言って、吉良はようやく笑顔を見せた。
人はそんなに強くない。
それなのに差し出す手は何故か力強い。
・・知ってるからさ。
差し出される心強さを知っているからこそ、差し出す手が力強くなるんだ。
・・おい。
そこのオマエ。
オマエだよ、オマエ。
凹んでねえか?
・・ちっ。こういう時は素直に凹んでるって言うんだよ。
意地張ってんのもキライじゃねえけどよ。・・・ホラ、言ってみ?
・・聞こえねえな。もう一度だ。
・・よし。上出来。
・・・ほら。周りを見てみな・・?
オマエはひとりなんかじゃねえだろ?
遠慮なく甘えちまえ。
それで・・どこかでまた返せばいいんだよ。借りた手を。
・・・ま、世の中そんな風になってるもんさ。
なんちゃって。