幸せな男(志波海燕)

これだけは言える。
・・・俺は幸せな男だった。

志波家の気性は猪突猛進が信条だ。
俺の両親も俺の兄弟たちも皆その血を受け継いでいる。

・・・その昔、志波家は四大貴族の一角を占める大貴族だったんだとよ。

ま、流魂街で生まれた俺には、関係ねえけどな。
ご先祖様が、何をやらかしたかは知らねえが、四大貴族どころか貴族の称号そのものまで返上だ。相当やばいことをやっただったんだろうな。

ついでに言っとくが、志波家の教育はスパルタだ。
ほんのガキの頃からガツンガツンに躾けられる。
俺もいつの間にか、考えるより先に体が動くようになっていた。

『真に重要な時には、考える暇などはない。己の本能で動くべし。
それゆえ常に心身を鍛え、己自身を鍛えるべし。
信じよ、己を信ずるに足る者となれ。理屈は後についてくるものなり。』

正しく、イノシシのイメージが付き纏う志波家の面々だが、何故か名前は鳥が必ず関係する。
俺は「海燕」だし、妹は「空鶴」、弟は「岩鷲」だ。

『地上の価値観に囚われず、空から己自身の広い視野で物事を見よ。』

突っ走る家系だけに、何を持って突っ走るのか自分の判断が外的因子に囚われない様、「名」によって戒めているわけだ。

俺は出来がいいらしく、死神になるのも席次につくのもかなり早いらしい。
学院に入って7年で気が付いたら副隊長になっていた。
流石に、この席次になると何でも猪突猛進という訳にはいかねえから、大分大人しくなったんじゃねえかな。
でも自分のことになると、やっぱり出ちまう。性格が。

一番、顕著だったのが都の時だな。
会って、2日目にこう言っていた。
「都、俺と結婚してくれ!!」
考える暇はなかった。気が付いたら言ってたんだ。

ちなみに、俺の上司、浮竹隊長の目の前だった。
浮竹隊長はあまりの展開に、発作を起こして2日寝込むことになった。
・・・これは今でもすまねえと思ってる。

当然、都は驚いていた。
かなりモテてはいたみたいだが、流石に俺みたいなのはいなかったようだ。
だが、とりあえずは友人からということから始まった。
それから、2か月位してかな。
都がこう質問してきた。

「私はようやくあなたのことが分かってきた様な気がします。」
「ホントか?!で、俺と結婚してくれるか?」
「・・嫌いではないです。でも・・・なぜ、会って2日目でプロポーズしようと思われたのですか?私の何処が御気に召したのです?」
「何処がって言われてもな・・。・・・正直言ってわからねえ。」
「分からなくて、プロポーズしたのですか?」

「ただ・・分かっちまったんだ。ああ、俺はこの女のためなら死ねるって。理屈じゃねえよ。ただ俺の本能が叫んじまったんだ。」
「本能・・ですか?」

「ああ。俺の家系でな。本当に大事なときには本能で動いちまうんだ。
だけど・・少なくとも俺の場合、外したことはねえ。だから、たぶん俺はお前のために死ねる。
そう思える女に出会えるなんて、たぶん一生に1度あるかないかだ。
何処がいいかなんてのは、俺の場合後から分かる裏づけみたいなもんなのかもな。
・・・ゴメンな。気持ち悪いよな、こんな話して。」
「・・・・イヤです。私のために死ぬだなんて・・。」
「・・だよな。ゴメンな。」
「・・・どうせなら・・・生きてください。私のために生きてください・・。」
「・・・都?」
「約束してください。でしたら・・・お話を・・私・・お受けいたします。」


結婚する報告を浮竹隊長は無言で聞いていた。
「・・分かった。俺は許可する。」
正直反対されると思っていた。だが、隊長の度量は俺の予想をはるかに超えていた。
「お前たちがそうしたいのであれば、俺はそれを許可する。
俺はお前たちが、任務において私情を不適切に持ち込まない者であることを分かっているつもりだ。
海燕、都・・・おめでとう。俺からも祝福させてくれ。」
そのときの慈愛に満ちた隊長の表情を俺は忘れない。

俺と都との件で、浮竹隊長は他の隊長から相当の反対を食らったらしい。
同じ隊の次席と三席が結婚するんだ。反対があって当然だろう。
だが、隊長はそれを全て受け止めながらも、俺たちを庇ったらしい。
何より隊員である俺たちの意思を尊重するために。
・・・隊長には礼をいくら言っても言い尽くせねえ。

十三番隊ほど、隊員の人格を尊重しあえる隊はないと思ってる。
もちろん、中にはつまんねえ考え方をする奴もいるが、皆それなりにいい奴だ。
この十三番隊にいる以上、全てのやつが俺の仲間だ。
俺が全力で護ってやる。

だが・・・俺は護れなかった。
都の遺骸をこの目で見たとき、俺は全ての感情のリミッターが外れる音を聞いた。


「海燕どのーーーー!!!!」
朽木の絶叫が聞こえる。
・・ゴメンな。・・キツい思いさせて・・・。

・・・浮竹隊長。最後まで・・俺の意思を尊重してくれて、有難うございました・・・。
感謝してます。俺は・・・隊長の下でやれたことを・・・本当に・・誇りに思います・・・。

・・・都。
『生きてください。私のために生きてください・・』
・ ・・・ゴメンな。約束・・・護れそうも・・・ねえ・・。

お前を・・・護れなくて・・ゴメンな・・。

薄れ行く意識。かすむ目。

だけど・・・これだけは・・・・言える・・。
俺は・・・幸せな・・・男・・だった。


なんちゃって。

inserted by FC2 system