幸せの連鎖(藍染と雛森)
「もう!どうして男の人ってあんなに喧嘩っぱやいのかしら!!」
五番隊の執務室に入るなり、副隊長の雛森がため息をついた。
たまたま見かけた十一番隊の隊員たちが殴りあいの喧嘩をしていたのを諌めたばかりなのだ。
「どうしたんだい?雛森君。君がそんなに怒るなんて珍しいね。」
書類の仕事をしていた藍染が、穏やかな視線を向ける。
「あ、藍染隊長。いえ・・。」
「何かあったのかい?」
「大したことではないんですけれど・・・・。先ほど十一番隊の人たちが殴りあいの喧嘩をしていて・・・。私が止めたのですが、理由を聞いてみると、掃除の当番を決めるためなんだそうです。もう・・私呆れてしまって。」
「それは大変だったね。だが、他の隊のこともちゃんと指導するとは、なかなか出来ないことだ。君は実によくやってくれるね。」
「そんな・・・。私は副隊長として当たり前のことをしたまでですから。」
「当たり前のことを当たり前にするというのが、難しいんだよ。」
そうして、藍染は部下に穏やかに微笑んだ。
途端に雛森の頬が赤くなる。
「あ、あの、私お茶を入れますね?」
「ああ。すまないね。」
お茶を入れながら、雛森は話を続ける。
「あ、あの。先ほど男の人って喧嘩っぱやいって言いましたけれど、藍染隊長は違いますから!」
「ははは。そのことか。いや、あながち違うとも言えないと思うが。男性が女性よりも喧嘩っ早いというのは事実じゃないかな。」
「でも!藍染隊長は違います!!」
「もちろん、個人差はあると思うが。しかし、男性は女性に比べて、幸福を感じる能力が少ないのかもしれないね。」
「どうしてですか?」
「男性と女性の決定的な違いは、生殖だ。
男性は力は強いかもしれないが、生物の根幹である子孫を残すという意味において、女性の理解と献身を得られなければ、無力だからね。
女性に絶えず、依存することとなる。
その辺が、幸福を感じる能力と関係しているのかもしれないね。」
「そうなんでしょうか。・・私にはよく分かりませんが。」
玉露のいい香りが立ちこめる。そうして、藍染のまえに湯呑みが置かれた。
「どうぞ。・・・でも、幸福を感じる能力ってなんでしょう。」
「僕は現状を客観的に判断し、かつ満足する能力だと思う。判断するのは客観、満足するのは主観の問題だ。そのどちらもが必要だろうね。特に男性に足りないのは満足するという主観だ。」
「なんだか、幸せになるのって難しそうですね。」
「そうでもないよ。現に僕は今雛森君が入れてくれたお茶で幸せだと感じている。」
「そんな・・。私のお茶で幸せだなんて・・。」
「重要なことだよ。君が僕のために、お茶を入れる稽古をしてることも知っているし、今日のお茶が、またいつもと違う産地だということも、このお茶を君が一生懸命選んでくれたことも、知っている。
これで幸せを感じないほうがおかしいだろう?」
「!!!藍染隊長・・!!」
「僕は幸せとは連鎖するものだと考えている。一つの幸せに気付けば、次の幸せに気付くものだ。現に、こうして僕のために努力してくれる、君を副官に持って幸せだということに気付いている。」
「藍染隊長・・!私も隊長の元で働けて、本当に幸せです!!」
「おや、君のほうにも連鎖しているようだね。喜ばしいな。」
そうして、五番隊の隊長はまた穏やかに微笑んだ。
隊長と副隊長の信頼関係は、隊の雰囲気を左右する。
若くて女の身ながらも、尊敬する隊長に必死で仕えようとする副隊長と、それを穏やかに許容する隊長。
五番隊は、護廷十三隊の中で最も安定した隊と評価されていた。
その結束力は、しばしば他の隊からも羨まれるほどである。
・・・そう。・・・・あの事件が起こるまでは・・。
なんちゃって。