神経内科医、吉良イヅル(基幹病院BLEACH)

・・・基幹病院BLEACH。

その神経内科の診療室に、一人の医師が患者に穏やかに病気の説明をしているのが聞こえる。
どこか硬質さを含みながらも、耳になじむ声だ。

まだ若い。

医学的な専門用語をなるべく使わずに、素人でも分かるように噛み砕いて説明しようとする姿に、医師としての誇りとともにこの医師の優しさが垣間見える。

神経内科とは、脳梗塞、脳出血、脳腫瘍のように脳の中に何かが出来ている病気を主な診療対象にしている。
しかし、パーキンソン病、アルツハイマー病、といったようなものから筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症など筋ジストロフィーに至るような難病を扱いもする。


高度な専門性ももちろんであるが、脳における疾患を抱える患者および家族の精神的なケアも欠かせない難しい仕事だ。

若いながらも優秀。
そして、なにより患者との誠実なかかわり方において、高い評価を受けている医師。


それが・・神経内科医、吉良イヅルである。

今関わっているのは、日常生活に支障が出るほどひどい頭痛を訴えるも、何処の病院でもすげない扱いを受け、たらい回しにされた末にこの病院にたどり着いたという若い女性だった。

「・・ですから、このMRIの写真からも分かりますように、頭痛は脳に出来た血栓と言う血の塊が血管を圧迫して、生じている可能性が高いと思います。

・・頭痛はあなたの怠惰によるものではなく、病気によるものなんですよ・・。
どうかご自分を責めないでください。

・・・ずいぶんつらい思いをされてこられたようですね・・。」


家族の理解すら得られず、数多くの医師から、鎮痛剤を出されるだけの治療を受けてきた患者は、ただただ涙を流している。
恐らくこれまでの思いが一気に出たのであろう。

「大丈夫、ちゃんと治療すればよくなります。
まずは血栓を溶かす治療から始めましょう。

御希望でしたら、診断書を書いて周りの方に納得していただくことも出来ますよ?」

診断書を書くということは、またイヅルの業務が増えるだけだ。
しかし、イヅルは患者のために自ら提案することも多い。

脳の疾患は、患者に多大な精神的ストレスをも与えてしまう。
明日の自分は今の自分でい続けられるのか・・・。
そんな恐怖が患者を常に苛むのだ。

ストレスは厳禁だ。
そんな患者を少しでも精神的な苦痛を和らげるように気を使う。

その為、イヅルは精神科も見ることが出来るよう、研修を受けている。
神経内科医になるためには、精神科としてのフォローも必要だと考えていたためであった。


電子カルテに入力する指は、男にしては骨が浮くのではないかと思うほど細い。
几帳面な性格を写し、おびただしい医学書やファイルが見事に整理整頓された診察室だった。


「・・じゃ、次は2週間後に。でも異変を感じたら、いつでも来てください。


・・・お大事に。」


穏やかに笑って、患者を送り出す。
泣くことで少し楽になったのか、少しスッキリした顔をして、患者は診察室を後にした。


それを見送り、イヅルはようやく大きなため息をついた。
患者の心痛は、イヅルの繊細な神経にも当然影響を及ぼすのだ。

「お前みてえな神経質な奴が、神経内科なんてやってけんのかよ。
もっと他の科でもよかったんじゃねえか?」

イヅルが患者の負の感情を抱え込む性格であることを知る、イヅルの同期であり整形外科でもある阿散井恋次はいつもそう茶化す。


『・・・・確かに阿散井君のいう通りかも知れないな・・。


でも・・・患者の気持ちが分かってこそ、患者に適した治療が出来る気がするんだ・・。
その為には、患者の精神レベルまで自分も降りなければ・・・


下に患者の精神があるというなら・・いや・・それだけ深刻だからこそ、必要なんじゃないかな・・。

・・・もっと僕に適した科があるのかもしれないけどね。


でも・・僕はこの診療科目に・・誇りを持っているんだ・。

だから・・僕はやめないよ・・?』





「次の方に入っていただけますか?」
イヅルは看護師に対しても、丁寧な物言いをする。


そしてまた、イヅルの戦いが始まった・・。
患者の病との闘いと・・・・引きずられ過ぎないよう自らとの闘いである・・・・





なんちゃって。

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