シロちゃんとじだん坊(なんちゃって)

じだん坊が西の門(通称、白道門)の番人で、シロちゃんまだ死神ではなかったころのこと。雛森が霊術院へ入学を決めたころの話。

シロちゃん 「ああ、お前か。西の門を守ってるじだん坊って。」

それまで、まったく人の気配を感じなかったじだん坊はあわてて声のするほうへ顔を向けた。しかし誰もいない。気のせいかと思ったその時また声が聞こえた。

シロちゃん 「おい、どこ見てる。ここだ、ここ。」

じだん坊が視線をより足元に向けると、そこには小さな子供の姿が。気をつけないと踏んでしまいそうなほど小さい子供だった。細い首を精一杯かしげ、じだん坊を見上げている。体の大きさゆえに、彼を見るだけで畏縮してしまう者がほとんどだというのに、この小さな子供はまったく気にしている様子もなく気の強そうなまなざしをじだん坊に向けていた。

じだん坊  「なんだべ?おめぇは。ここは小僧の来るどころでねぇど。はやぐ、家かえれ。」
シロちゃん 「うちのばあちゃんが、これお前に届けてくれって言うんで持ってきた。」

みれば、小さな体にそぐわぬ程の大きな風呂敷包みを背中に背負っていた。子供はまったく重そうにはしていないが。

じだん坊  「小僧ひどりでか。」
シロちゃん 「小僧じゃねぇ。オレには日番谷冬獅朗ってちゃんとした名前がある。」
じだん坊  「そうか、小僧はひぎゃーやどーしろーって言うだか。」
シロちゃん 「ひぎゃーやじゃねぇ。ひつがやだ。ひつがやとうしろう。」
じだん坊  「ひ、ひどぅぎゃやどうしろう?あでっ、舌噛んでまっただ。」

じだん坊は気のいいやつなのだが、なまっている上に頭の回転が少し足りないので難しいことは言うのも覚えるのも苦手だった。

シロちゃん 「・・・獅朗でいい・・・」
じだん坊  「おお、シロウか。それなら言えるど。で、なんだべ、その背中のは?」
シロちゃん 「まんじゅうだ。ばあちゃんがたくさん作ったっていうんで、いつも門番しているお前にもおすそ分けだとさ。」

どさりと背中の風呂敷包みをじだん坊の前に置いてやると、じだん坊が飛び掛った。
じだん坊  「オ、オラ、まんじゅうには目がねぇだ!!」
包みを解いて、中身を食べようと伸ばされた大きな大きな手が、小さな小さな手に止められる。

シロちゃん 「食う前に、なんか言うことがあるだろうが。」

子供は少しも力を入れているようには見えない。しかしじだん坊はまったく手を動かすことが出来なかった。

じだん坊  「食う前?いだだぎます、だか?」
シロちゃん 「ばかやろう、それもあるがそうじゃねぇ。物を貰ったら普通なんていうんだ?」
じだん坊  「あ、ありがとうだべ!!オラ言うの忘れただ!!スマンスマン」
シロちゃん 「そうだ、礼儀を守らねぇと都会じゃ嫌われるぞ。」
じだん坊  「もう食べていいだか?」
シロちゃん 「いいぜ、食えよ。」

子供が手を離すと、それまでてこでも動けなかったじだん坊の手が、ようやく饅頭をつかんだ。

じだん坊  「うめぇ!!シロウのばあちゃんの作ったまんじゅうはうめぇ!!」

いかにも美味しそうに食べていたじだん坊だが、誤ってまんじゅうをひとつ落としてしまった。あわてて拾おうとすると、また小さな手に手を抑えられてしまう。

シロちゃん 「食うなよ?」
じだん坊  「なんでだ、もっだいねぇべ?」
シロちゃん 「いいか、じだん坊。都会にはルールってもんが3つある。一つめはは、外から帰ったら手を洗う。二つめは床に落ちたもんは食わない。三つめはまあいいとして、都会でやっていくには都会のルールを守らなけりゃいけねぇ。」

じだん坊  「そうか。都会のルールっでもんなんだべな。わがっだ。オラ、食わね。」

シロちゃん 「じゃ、オレもう帰るから。じゃぁな。また来てやるよ。」
じだん坊  「ほんどか?!じゃ、オラと友達になってくれねぇべか? 」
シロちゃん 「?いいぜ。またな。」

去っていく友達になったばかりの小さな影に、じだん坊は尚も呼びかけた。

じだん坊  「お〜い!!シロウ!!都会のルールの3つめってなんだべ?」
シロちゃん 「ああ、三つめか。」

子供は歩みを止め、くるりと振り返って言った。口元に年に似合わぬ笑みを浮かべながら。

シロちゃん 「決闘する時は一人ずつってやつだ。」

そして、またきびすを返し、やがて小さな影は見えなくなった。


・・・それから時は流れ、ほんの小さな子供だった日番谷冬獅朗が少し大きくなり、隊長就任最年少記録を作って大出世した今でも、時々非番のときは、門番の仕事の都合上動けないじだん坊のところへやってくる。

・・・・手には彼の祖母が作ったまんじゅうを携えて。

・・・なんちゃって。
は〜、もっとも熱いファンが多いシロちゃんを書くのは緊張するわ〜。

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