シロちゃんと慈楼坊(なんちゃって2)

慈楼坊は不機嫌だった。

よくない噂を聞いたからだ。噂の対象は彼の兄であるじだん坊。
噂の内容とはこうだ。

「西の門番である豪傑、じだん坊が年端も行かぬ子供と友達になり、肩に乗せて楽しげに話している。そればかりではない。その子供に都会のルールとやらを毎回生徒のごとく教わっているらしい。」

兄のじだん坊は頭の良い自分とは違って、人がよく、愚鈍とさえいえるところが確かにある。ソウルソサエティに名をとどろかせる豪傑でありながら、いまだ門番の座に甘んじているのはそのせいだ。しかし、よりにもよって、流魂街の子供ごときと馴れ合っているとは・・・・
このままでは、相当の努力をしてひどい訛りを標準語に完璧に矯正し、兄と同じくせっ毛と毎朝悪戦苦闘して撫で付けて七三に分け、知性をにじませるようにしてきた自分の評価まで落としかねない。
ようやく、七番隊の第五席まで上ってきたのだ。これから上を目指すためにも、身内のスキャンダルは避けたいところだった。

そこで、兄にその子供と付き合わないよう忠告に来たのだが・・・
じだん坊 「いやだ。」
慈楼坊  「何ですと?」
じだん坊 「シロウはオラの大事な友達だ。オラが誰とづぎあおうが、おめえの指図は受げね。」
慈楼坊  「兄さんはそれでいいかもしれませんが、私が困るのです。兄が流魂街の子供と付き合っているなどというスキャンダルがあっては、私の出世にも影響しかねない!私は五席などで留まる気はありません。もっと上を目指しているのです。ですから兄さん、弟の私のためにも子供と付き合うのはやめていただきたい!」
じだん坊 「いやだ。おめえはおめえ、オラはオラだ。シロウはいいやづだ。オラの自慢の友達だ。」

慈楼坊は舌打ちした。こうなっては兄はてこでも動かなくなる。兄のほうを説得するのは無理のようだった。こうなっては・・・

慈楼坊は非番の日、西の門から外出できるよう許可を取り付ける。そして、兄に
「外出か。ぎを付けて行ってぐるだぞ。」と、にこやかに門を通してもらいながら、目的の場所へ向かった。
場所は西流魂街西地区「潤林安」。そう、兄が友達だといった子供のいる地区だ。目的の子供を捜すのは意外に簡単だった。じだん坊と仲良くしている子供を捜しているといえばすぐに分かった。
会ってみれば、本当に年端の行かぬ子供だった。生意気そうな目はしているが、死神の第五席を勤める自分が少し脅せば何とかなるだろう、・・・そう思っていた。
それが・・・

シロちゃん 「やだね。」
慈楼坊   「何ですって?」
シロちゃん 「死神と友達になっちゃいけねぇって言う法なんてねぇだろうが。弟だかなんだか知らねぇが、兄貴の友達関係まで口を出すって言うのはお門違いなんじゃねぇか?」
慈楼坊   「あなたが兄と友達だなんてスキャンダル、私の出世にかかわるかもしれないんです!!」
シロちゃん 「違うだろうが。おまえ自身が力がありゃ、兄貴が誰と付き合おうが出世できるはずだぜ。死神って言うのは実力世界なんだろ?兄貴のせいにするのはおかしいんじゃねぇか?」
慈楼坊   「!!!!!!」

なんということか。自分がこんな子供に言い負かされるとは!しかしここで引くわけにはいかないと考えた慈楼坊は実力行使に出ることにした。

慈楼坊   「大人の言うことを聞かない子供には、お仕置きが必要ですね。言ってわからなければ、体に聞かせるしかありません!」

慈楼坊は振り上げた手を子供の横っ面に振り下ろした。
しかし、すんでのところで手が何かにさえぎられる。
慈楼坊   「・・・・?」
ありえないことが起きていた。小さな小さな子供の手が自分の手を抑えているのだ。いや、それだけではない。抑えられた手がまったく動かせられない。少しもだ。
シロちゃん 「あぶねぇな。」
本能的に危険を感じた滋楼坊はとっさに後ろに跳び下がった。危険だ。この子供は危険だ。間合いを取って、もう一度飛び掛る。全力の手加減なしだ。死んでしまえば何か理由を後からつければいい、そう思った。
しかし、全力で繰り出した拳は信じられないことにまたもや子供の手に抑えられていたのである。それも片手で。
慈楼坊 「このガキが!!!」
完全に頭に血が上った慈楼坊は思わず刀に手をかけた。が、抜けない。なんと、子供が瞬時に懐に忍び込み、刀のつばを押さえていた。そして自分の何倍もある慈楼坊を軽々と担ぎ上げたのである。

シロちゃん 「こんなところで刀抜くのはどうかと思うぜ。しかも相手は丸腰だ。」

そして、子供は慈楼坊を頭を下にして枯れ井戸の中に放り込んだ。体が大きいため、腰から上の足の部分が井戸から飛び出した状態だ。

慈楼坊   「何するんだべ!!早くオラをごごから出せ!!」

興奮のあまり、訛りに戻ってしまった慈楼坊を尻目に子供はぬけぬけといった。

シロちゃん 「いやぁ、ちょっと手が滑ってな。こりゃ、じだん坊でなきゃ引き上げるのは無理そうだ。呼んでくるから、そこでおとなしく待ってな。」
慈楼坊   「嘘こくんでねぇ!!早くここから出すだ!!」
シロちゃん 「やだね。じだん坊が来るまでの間、そこでじっくり後悔するんだな。ホロウでもない民間人のオレに刀抜きかけたんだ。後悔する時間も必要だろ?」

そして、体重の軽そうな足音がたすたすと去っていくのが聞こえた。

そして・・・じろう坊が来るまでの間・・・・

「おかあさーん、あれなにー?井戸に足が生えてるよ?」
「しっ、見ちゃダメ!!さ、早く行きましょ!!!」

通りかかる人の話し声を井戸の中で聞いていた慈楼坊の頭の中をひとつの言葉がぐるぐると回っていた。

・・・その言葉とは・・・「後悔」である。


その後

慈楼坊は何かにつけて「後悔しなさい。」というセリフを多発するようになる。よほど悔しかったに違いない。

実は慈楼坊はシロちゃんが霊術院に入学した後、2度ほど仲間を差し向けて襲わせたことがある。最初は5人で。次は10人だった。しかし、二回目の最後の10人目を影でコッソリ見ていた自分に投げつけられて以降、逆に彼はシロちゃんの姿を見るたびに隠れるようになる。
そして、天才と呼ばれるこの少年が霊術院を卒業して死神になったとき、最初についた席次が第三席と知って、彼の復讐の夢は脆くも潰えたのであった。



なんちゃって。

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