指示語の楽園(一番隊のお話

一番隊のなんちゃってです。
なんと、話の都合上オリキャラを登場させます。
流石に自分を登場させるのはもう厳しいと思われるので、田中新之助とでもいたしましょうか。
彼は一番隊の新人です。下っ端です。偉くはなりません。
それではどうぞ。

「ソウルソサエティには・・・・指示語の楽園が存在する・・・・
しかし・・その存在を知るものは少ない・・・・」

私は一番隊副隊長。一部には私のことを「名無しのダンディ」と呼ぶものもいる。
7月20日。本日我が一番隊に新人がやってくる。
学院時代の成績は中の中。
あまり将来を期待は出来なさそうだ。
しかし、我が一番隊に入隊する以上、それにふさわしい実力をつけてもらうよう鍛えねばなるまい。

「田中新之助です。よろしくお願いいたします!!」
「おお、おぬしが田中か。わしが一番隊隊長、山本元柳斎重國じゃ。おぬしが一番隊に入ったのも何かの縁。しっかり鍛錬し、己を磨けよ?」
「は、はい!!」
「これ。」
「は。」私は音もなく総隊長の傍に寄る。
「田中を隊の者に紹介してやれ。管轄範囲もみせてやるがよかろう。」
「承知。」
「それから、例の件じゃが。」
「護廷十三隊の予算案でございますね?こちらに。」
「あれはどうなっておるかの?」
「人員増員の件でしたら、こちらに返答の書類が。」

私は永らく総隊長に名を呼ばれたことが無い。
しかしそれは私だけには留まらない。席次についた者はその就任と同時に、名を呼ばれなくなる。
ほとんどが、「三席」だの「四席」だのと呼ばれるわけである。
しかし私は席次ですら呼ばれたことは無い。
他に副隊長がいる場合で、どうしても必要な時は別ではあるが。
ほとんどが「これ。」だ。不満は無い。総隊長が私をどう呼ぼうと、私の忠誠心が揺らぐことなどありえないからだ。
しかし、総隊長が指示語を使うことで下のものにも影響が出ていた。

私を下のものが呼ぶ時にも、「副隊長」としか言わぬように何時しかなっていた。


山本総隊長は、普段一見すれば穏やかな好々爺でいらっしゃる。
しかしいざ有事となると、その穏やかな風貌が一変されることを私が一番よく知っている。
一番隊のみならず、十三隊全てを統括する方だ。そして、その実力は私すらも計り知れぬ。

総隊長は、新人と二人で必ず食事をされる。新人が慣れてきた頃にだ。
その場には私すらも同席することは出来ぬ。
総隊長は私が副隊長に就任して以降、全ての新人にそうしてきた。
恐らく今度の田中にもそうするであろう。

総隊長は全ての隊員及び過去の隊員の名と顔を覚えておられる。
いつぞやなど、席官にもつかずに他の隊に移った者に偶然会い、その名を呼んだ時のその者の驚きようは見物であった。

さて、新人が入って3ヶ月目のことだ。
「これ。」
「は。」
「田中と一席設けよ。日時は任せるゆえ。」
「承知。」

それから一週間後に恒例行事が行われた。
「これ。」
「は。」
「今日は外で待っておれ。」
「承知。」

・・不満は無い・・しかし・・最後に総隊長に名を呼ばれたのは何時だっただろうか
・・・私は・・このまま・・山本総隊長に名を呼ばれずに過ごすのか。

その日は10月にもなるというのに、気温が高く、いつも使っている店の外扉も開け放たれていた。
常人なら話は聞こえぬが、私は別だ。
それゆえ、邪魔をせぬよう控えていた。
田中は酒は普通に飲める様子だ。
総隊長が、現在の様子などを穏やかに聞いておられた。

「あの・・・山本総隊長。」
「何かね?田中よ。」
「・・・前から不思議に思っていたことがあるのですが。」
「なんじゃな?」
「何故副隊長のことを何時も指示語で話されるのでしょうか。」

思わず外で控えていた私の全身に緊張が走った。

「おお、あれのことか。不思議か?」
「はい・・・。すいません、変なことをお聞きして。」
「よいよい。・・・そうじゃのう。田中はすべて指示語で会話が通じる者がおるかの?」
「全て指示語で・・ですか?いいえ。第一全て指示語でだなんて・・・本人にしか分からないのでは・・・」
「それがの?わしにはおるのじゃ。全て指示語で意味が分かる者がの。」
「それが副隊長でらっしゃるのですか?」
「そうじゃ。・・・わしはの、あれに甘えておるのじゃ。」
「副隊長にですか?」

総隊長がご自分の杯を干す気配がした。

「総隊長にもなるといろいろややこしいこともあってのう。難しいことも決断せねばならぬこともある。しかしの?わしには全て指示語で理解してくれる者がおるのじゃ。これは誰でも出来ることではない。わしとともに長い年月を過ごし、わしを理解してくれる者だからこそ出来るのじゃ。」
「そうなんですか。凄いな・・・総隊長のことを全て理解するだなんて。」
「そうじゃ。だからわしは敢えてあれを指示語で呼ぶのじゃ。わしを理解してくれておることを確認するためにのう。」

そうか。私の迷いをあの方は知っておられたのだ。
あの方はこれを聞かせるために私を外で控えさせたのか・・・。
私のことをあの方は全てご存知でいらしたのだ。

あの方の副隊長になって最早年を数えるのも鬱陶しくなるほどだ。
あの方にこの命を託して幾ばくになるのか・・・・。
私も老いた。あの方のために役に立てる年もそう長くはあるまい。
しかし、老いたりといえどこの命、変わらず託すことをここに誓おう。

・・・終わりが来る、その日まで。

「ソウルソサエティには・・・・指示語の楽園が存在する・・・・
しかし・・その存在を知るものは少ない・・・・

そして、私はその誇りある楽園の住人だ。」

なんちゃって。

inserted by FC2 system