静かなる遊戯(藍染惣右介)

・・・・子供の頃だったか・・。

昔は・・・何かの目的に到着する道は1つしかないと信じていた。

・・・・そして正義もまた、唯ひとつであると信じていた。

だが・・・道も・・そして正義すら1つではないと知った時・・・。


・・・子供は大人への領域に踏み出すこととなる。



僕はひとつの決断を今しようとしている。

・・・何のだって?

・・・これまでの方針を変更するかどうかの決断だよ。


浦原喜助が尸魂界を去って100年が近い。
僕は今まで、浦原が研究し、開発したある物質を再現しようとしていた。
・・崩玉だ。
浦原喜助が開発した、死神と虚の領域の境を取り除くことの出来る、現在唯一の危険な物質。
それが崩玉だ。

僕と浦原は、知的レベルが近いということと研究においても興味があるという共通点があるため、ある程度の親交があった。
といっても、僕の研究に必要な機材を借りるため、技術開発局を使わせてもらう時に話す程度なのだがね・・。

彼は死神と虚の領域の境を取り除く方法を研究していた。
僕も興味があったが、その当時はそこまでは手が回らなかった。

そして、ある日浦原が僕にこう言った。
「崩玉が・・完成したんスよ・・。」
画期的な発見だ。
まさしく、天才といわれる浦原の最高傑作といえる発見だった。
僕は賞賛し、新たな死神の未来について胸を膨らませた。
僕たちは・・新たな領域へ踏み出すことが出来るのだ・・と。

しかし、次に出てきた浦原の言葉に耳を疑った。
「アタシは・・なんてものを作っちゃったんでしょう・・。
あれは・・・危険な物質です。
この世にあってはいけない物なんス・・。」

研究開発とは常に危険を伴い、そして新たな領域を開くものに他ならない。
それは浦原が一番知っていることだ。
研究者は倫理の壁と常に戦いながら、それを突破して来たのだ。

「浦原・・。意外だな・・・君がそんなことを言うとは。」
「アタシもこんなことを言う日が来るとは思ってもいませんでしたけどね・・。」

その時僕は嫌な予感がした。
「・・・まさか、崩玉を破壊したんじゃないだろうね。」
「しました。」
「!!!浦原!」
「・・・でも・・出来なかったんスよ・・。どうしても・・・。」
正直ほっとした。・・・世紀の発見が失われなかったことに。
そして、浦原でさえも破壊できないという崩玉により興味を覚えたのも事実だ。


そして・・・その数日後・・・浦原は尸魂界を追放となった。

罪状は特殊な義骸を作ったため。
霊子を含まず、使用する死神の霊力を分解、しかも捕捉不可能というものだ。
確かに、重罪だが・・・真の理由は、崩玉を隠すためと僕は確信した。

破壊できない危険な崩玉を、どこかへ隠す為に、追放されるような研究内容をわざと出したのだろう・・。

・・・そして、崩玉の在り処は分からなくなった。


それからだ。
僕が浦原の研究を再現し、崩玉を作ろうとしだしたのは。
研究の内容については、記述を義務づけられている。
浦原の研究を再現することは可能なはずだった。

しかし、残された研究論文は穴だらけのものだった。
作業の最重要工程なのか・・・もしくは加える薬剤なのか・・・浦原はその部分をきれいに処分していた。

僕はその穴を埋めるべく、研究を始めた・・。

浦原に出来て、僕に出来ないはずはない。
知的レベルは変わらぬはずだ。可能なはずだった。

しかし、現実は残念ながらそう甘くはなかったようだ。
独創的な閃き。
それが、浦原の特出すべき才能でもある。

その閃きは、その時の浦原にしか分からない。
その瞬間を、後から他人が再現することは残念ながら不可能だ。


・・流石に少し時間をかけすぎていると思う。
そろそろ、方針の転換が必要な時期に来ていた。
自ら作ろうと思ったのは、その応用と量産が期待できるからだ。
しかし、それが難しいとすれば、別の道を歩むべきだろう。

本当ならば、したくはなかったのだがね・・・。

そのもうひとつの道とは・・・隠された崩玉を探し出すことだ。

ある人物が、人に知られたくない、誰にも分からぬように物を隠す。
それを見つけるのは、実はそう難しいことではないんだ。

まずはその人物の性格を把握する。
几帳面なのか、大胆なのか、内向的なのか・・・などだ。

次に知的レベルを把握する。

そして・・・その隠した人物の頭脳に自分の頭を合わせればいい。

そう・・浦原の頭脳に・・・。
これは閃きは必要ない。隠す行動には右脳ではなく、記憶領域である左脳が使われるからだ。
人は隠す場所を探すために、記憶の場所から探す場所を探るものなんだ。
だから僕にでも十分出来る。

・・・さあ、合わせてみよう。

まず、身近なところには隠さない。
破壊できなかった代物だ。浦原の関係箇所を分子レベルにまで破壊すれば、崩玉だけが残ることを彼ならば直ぐに想像するだろう。
だから、身近にはない。研究室と居室だったところにはないはずだ。


次には身近だった人物に託すというのは?
いや・・それもない。
浦原はこういう時には、他人を頼らない。その者も危険に冒されるし、自分が持つより発見される可能性が高くなるからだ。

・・とすれば・・。
まったく自分と関係なかった所に隠すしかないはずだ。
自分との関連性が、一見まったくない所に隠そうとするはずだろう。

次には大きさだ。
浦原が追放された当時の荷を考えると、その時に分からぬ程度の大きさなのか・・。
若しくは、こっそり抜け出して隠すことの出来る大きさ・・・。
ということは、それほど大きいものではない。片手で収まる程度のはずだ。

浦原が追放されるまでの行動は記録として残されている。

その中から、考えられる行動を辿っていけばいい。
君のことだ、隠す方法についても過去の研究を駆使しているだろうね・・。
今までの研究のおかげで、僕は君の研究のことを誰よりも知っている者となっただろう・・。


・・・さあ、浦原。
今から僕とゲームをしないか?

僕が崩玉を狙うことは分かっているのだろう?

僕が先攻だ。君の隠した崩玉を見つけよう。

そして・・・奪う。

君もそれに対して、当然何か対策を講じているはずだ。
僕の行動を防いでみたまえ。

ああ・・君は現世にいるから、少し駒が弱いかな?
でも君のことだ。直ぐに新たな駒を探すはずだよ・・?

一方、僕のほうも内密に動かなければならないからね、・・・あまり多くの駒は持てないんだ。
・・・それが、僕のハンデといったところかな?


君とはいい勝負が出来ると期待しているよ?


・・・久しぶりだな・・こういうのは・・。



さあ・・・お互い楽しもう・・・。
もちろん僕は負けるつもりはないよ?

久しぶりに・・・ぜひ君の頭脳を見たいものだね・・・。

どうか、現世で錆び付かせたりしないでくれたまえ。



なんちゃって。


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