スラムより出でる若き獣たち(恋次と修兵)
『げ〜〜〜。ナリの割りに優等生の典型だぜ。
俺、ぜってー合わねえ。』
それが俺、阿散井恋次から見た、檜佐木修兵への第一印象だった。
俺が学院の新入生だった時に6回生だったから、5コ上か。
俺は知らなかったんだが、先輩は既に有名人だったようだ。
なんか在学中に十三隊に入隊が決まるのってスゲエ事らしい。
で、俺たちの実習に来たのが、先輩だったわけだが・・・。
ナリはワルっぽいくせに、話す内容は「あ〜〜、こいつ優等生だわ。」ていうのが丸分かりの感じだ。
なんだか分かんねえけど、鼻持ちならねえ感じがしたんだ。
それで、実習でいろいろあってよ。
なんか俺たち1年坊が先輩を助けたみたいなことになって、先輩とは仲良くなった。
といっても、先輩は直ぐに十三隊へ配属になったんで、実際話し始めたのは、俺も十三隊に入ってからだと思う。
入隊の祝賀会で、俺に話しかけてきたのは先輩の方だ。
「おまえらも十三隊の仲間入りだな。って俺のこと覚えてるか?」
「えっと。檜佐木先輩ですよね。覚えてますよ。」
「そりゃそうか。助けてもらったもんな。」
「大げさですよ。結局助けたのは、藍染隊長と市丸副隊長なんですし。」
「でも、おまえらがいなければ、そこまで俺が持っていなかったのも事実だ。」
あ〜〜、相変わらず優等生なご返答だぜ。
と言いつつも、なんとなく仲良くなった。
俺も一応成績はいい有望株って奴だから、同じぐらいの世代はあんまりいねえし。
先輩もそんな感じだった。
だからかな。
同期のイヅルや雛森はお堅い奴なんで、飲み友達って感じだった。
優等生タイプとはいえ、先輩は酒は強い。
つるんでみて分かったんだけど、なんか同じ匂いがするんだ。
俺と。
なんでかな。そう思ったとき、ふと先輩の顔に入れられた数字に目が行った。
「先輩。その顔の数字って、もしかして出身流魂街の数字っすか?」
途端、先輩の手が止まった。
「・・何でそう思う。」
「イヤ・・なんとなく。俺も戌吊出身だし。」
「そりゃ、初めて聞いたな。そういや、学院の時に、戌吊出身で1組に入った奴がいるって聞いたことがあるが、あれはお前か。」
「そうっス。意外でした?」
「いいや?・・そうか・・道理で馬が合うと思った。」
戌吊は78だ。かといって69街区だって相当悪い部類には入るだろうな。
ま、スラムといって間違いねえだろう。
戌吊ほどではないとしても。
「お前・・戌吊出身だってのを隠したいと思ったことはないか?」
「隠すも何も、入学当初から知れ渡ってましたからね。クラスは違うけど、同じ出身の奴もいたし。」
「相当言われるだろう。1組に入る奴らなんて、いいところ出がほとんどだし。」
「イヅルと雛森もいましたしね。あんまり苦労はしませんでしたよ?」
「・・・そうか。」
それで、俺は気がついた。
先輩は同期には恵まれなかったみてえだ。
・・それで優等生になったのか。
俺は同期に恵まれた。それで出身のことを逆手にも取れたんだ。
無理に飾らなくてもいられた。
学院で先輩に合った時の違和感はこれだったのか。
俺たちみてえなのは、ヘンに鼻が利く。
同類は無意識に分かるんだ。
それで不思議と集まっちまう。
それで俺も先輩と馬が合ったんだろうな。
所詮は元獣だ。
それが、お上品な感じに飾っていれば違和感も湧くか。
先輩が69街区出身かどうかは結局は分からない。
でもあんまり俺とは変わんねえのは確かだろう。
「先輩。」
「なんだ。」
「俺はその顔の刺青、・・・結構好きですよ?」
先輩の顔が驚く。
・・・あんまり言われたこと無いみてえだな。
そして次に小さく噴出すとこう言った。
「お前、生意気。」
ついでに頭をぐりぐり小突かれたのは、カンベンて感じだったが。
「これは・・俺が俺である証明なんだよ。」
そういった先輩は、今までとはちょっと違った感じだった。
それから時は経ち・・・。
「お前いいガタイしてるな〜〜。ま、俺ほどではねえけどよ。」
机に肘を突いて、先輩が言う。
俺の前ではすっかり優等生はさようならだ。
「何言ってるんですか。どうみたって、俺のほうが盛りがいいじゃないッスか。」
「人間盛りじゃねえ。要は質とバランスだ。」
「それ以上、盛れないからって僻まないでくださいよ。」
「僻んじゃいねえ。ガタイはバランスだ。」
「じゃ、勝負しますか。」
「受けてやる。審査員は誰にする?」
「あ、丁度いいのが来ましたよ?」
「お、ホントだ。」
「イヅル!!俺と先輩どっちがいいガタイだ?」
「俺だよな?」
・・・・俺らはちょっと失敗した。
「・・・・・。
・・・檜佐木先輩も阿散井君も、大っ嫌いだ〜〜〜〜!!!」
駆け出すイヅル。
・・やべえ。一番密かに盛りを気にしてる奴に聞いちまった・・・。
「・・まずかったッスかね・・。」
「・・・ちょっとな・・。」
・・・スラム出身の獣か・・。
ま、それも結構いいもんだと思いません?
ね?先輩。
なんちゃって。