進む者と留まる者(日番谷と一角)

「おい、聞いたか?今度ガキが隊長になるみてえだぜ?」
「ああ、隊長就任最年少記録ってやつだろ?」

「天才児ってやつか。日番谷とか言ってたな。」
「天才かなんかは知らねえが、俺はガキの下にはつくのはゴメンだぜ。」
「全くだ。毛が生えそろってから出直して来いってんだ。
十番隊のやつらも気の毒に。」

「副隊長は松本乱菊だってよ。困ったときはママのおっぱいに慰めてもらえるってか?」
「ちげえねえ!!そりゃ羨ましいな、こっちもあやかりてえぜ。」


十一番隊で声高に男たちが噂話に花を咲かせている。

その内容は、少しはなれたところで酒を酌み交わしている一角と弓親にも届いていた。

「やれやれ。連中も品がないね。」
「・・・・何が俺たちはゴメンだ、だ。
うちの隊だって、副隊長がガキだろうが。

しかも十番隊の隊長よりもずっとガキだ。」

ぐいと杯をあおる一角。
それを弓親が頬杖しながら眺めている。

「君は気にならないのかい?一角。」
「気になるもならねえも、実力があるから隊長になれたんだろう。
めでてえことじゃねえか。」

すると、弓親の声が潜められてこういった。

「そうじゃなくて・・・君もその実力を表に出したいと思うことはないのかと思ってね。

・・とっくに隊長になる実力があるのにさ。」
途端に、一角の機嫌が悪くなる。

「・・俺は死ぬまであの人の下だ。

能力を隠す事でそれが出来るっていうなら、幾らでもそうしてやるさ。」
「君らしい意見だね。一角。」
「それをいうならお前もだろうが。
副隊長クラスのやつが何時まで五席をやるつもりだ?」

「僕も君と同じ隊にいると決めているからね。
でも四席だなんて、美しくない数はゴメンだよ。」
「・・ま、似たようなもんか。四席も五席も。」
「失礼な!!全く違うよ!!」
「ど〜〜こが違うてんだ?おんなじだろうが!!」
「君は全く美意識というものがないようだね!!
四席だなんて縁起が悪い数に、この美しい僕がつけるわけないだろう?
四だよ?!!四!!」
「な〜〜にが縁起が悪いだ!
もともと死神なんてえのは縁起が悪いと相場が決まってんだよ!!
いまさら四も五もねえだろうが!!」
「変わるさ!!僕にはね!!」


といったような十一番隊恒例のコントはともかくとして・・・。←オイ。

一角が十番隊隊長となった日番谷には、思いのほか早く会う事となった。

席官クラスが一同に集められ、日番谷のお披露目が行われたからだ。
総隊長に紹介された日番谷は想像以上に小さかった。

「・・確かにありゃ、まだ生えそろってねえのは確実だな・・。」
下品な一角の呟きに後ろから弓親のツッコミが入る。
「君の頭だって生えそろってないだろ?」
「バカ言え。俺のは剃ってんだ。生えてねえ奴と同じにすんな。」

子供には似合わぬ眉間に皺を寄せた、いかにも生意気そうなガキだった。
いくら天才でも、前代未聞の年齢で隊長就任を周囲に納得させるまでには相当な苦労があったはずだ。

いかにも意思の強そうな目をしている。
ただ隊長になりたい理由で上に上がってきたわけではなさそうだ。
何か特別な理由があって、必死になって急いで上に上がってきたのだろう。


そう思ってみていると、不意に視線に気づいたのか、生意気そうな碧の目がこちらのほうを向いた。
「何か文句でもあるのか。」と目だけで明らかに言っている。

『・・・確かにスゲエ霊圧だ。
隊長になるだけのことはある・・。』

一角にとって上に行くということは、十一番隊を外れるという事だ。
だからこそ、今の地位で留まるよう、努力をしている。

・・能力を隠すという地道な努力だ。


対して、あのガキは上になろうと天才の域を必死になって広げて進もうとしている。

後ろを振り向いた事もないだろう。。
そのまい進力に、子供が持つ可能性を感じた。


強くなりたいと思う気持ちは一角も負けはしない。
だが、それよりも十一番隊でいる事のほうが重要だ。
これだけは譲れない。

どんな犠牲を払ってもだ。

純粋に強さと上を目指せる、日番谷が眩しく見えもする。
いつか壁にあたり、苦悩するだろう子供。
挫折を知らぬこの子供も、いつかその苦い味を知る。

『・・ま、がんばんな。』

隊も違う。同じ任務になる事も恐らくほとんどないだろう。

『こういう手合いはあんまり他人に任せねえからな・・。


ま、男ってえのは挫折から這い上がってこそ、男が上がっていくもんだ。


今の俺も、あの人に負けてからこそあるってもんだしな・。』


一方は留まる事を選んだ者。

そしてもう一方は進む事を選んだ者。


『ま、しっかりやんな。隊長さん。』


ニヤリと笑って、こちらを睨み付ける碧の目への返答とした。

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