初代、技術開発局の日常(十二番隊)

護廷十三隊に所属する部署の中で、日常時間と最もかけ離れた時間が流れる部署がある。
そこでは、ある時は完全な昼夜逆転で何週間も稼動する事もあるし、何日も徹夜続きで稼動する事さえ珍しくは無い。

過酷過ぎるほどの勤務体系であるにもかかわらず、職員から苦情が出ることはない。

何故か。


それは、職員全てがその仕事に没頭することの出来る者たちだからである。


そのような奇人達が集まる部署。

それが・・・技術開発局である。

局の創設者にして初代局長の浦原喜助は、完全な天才肌の研究者だ。

開発するものは、身近な電球を改造しているかと思えば、訳のわからない新物質を研究していたりと、同じ研究者から見ても、その脳内の働きを知る事は難しかった。
いつも研究に没頭しているわけではなく、1日の大半はごろごろとしている。
その癖、ふらりと研究室に入ったかと思えば、出てくる時にはとんでもないものを作り出したする男だった。

初代局長とはいえ、局内の研究については個人に任せると言うスタンスだった。
護廷十三隊より何か依頼が来た時は、全部喜助一人でこなしてしまうか、若しくは部下に任せてしまう。
その場合、責任者となるのが涅マユリである。

マユリの喜助に対するライバル心はすさまじいものがある。
それゆえ、喜助が一旦仕事をマユリに振ると、喜助を上回らんと寝食も忘れて研究に没頭した。
功を急ぐあまりに、部下に対しても行き過ぎと思えるような言動を取る事も多く、やんわりと喜助に注意される事も多い。

それでもマユリは止めようとはしなかったが。


「ああ〜〜。疲れた。」
タバコを吹かせてながらも霊子コンピューターと向き合っているのは、局員の阿近だ。
傍らの灰皿にはもう限界にまで吸殻が積み上げられている。

「今日・・・いや昨日だっけか?なんか食ったっけ。
風呂にも入ってねえし・・・。
ま、いっか。1週間くらい風呂に入らなくても死にゃしねえし・・。」

2日後の納期に向けて、隊がらみの仕事の佳境のようだ。

阿近は根っからの研究者だ。
だが、喜助やマユリとは違うところがある。

阿近が開発したいものは、実際に『つかえる』物だ。
いくらすごい発明でも、利用用途が無ければ意味が無い。
そんなものを開発するくらいなら、便所のドアノブを開けやすい物に変える研究をするタイプだった。

それゆえ、有能だが、開発は喜助やマユリに対し地味になりがちで、本人も出世したいとは考えていないようだ。
彼が唯一こだわったのは、好きなだけタバコが吸える、自分の研究ブースを持つ事だった。

そんな阿近であるが、実際開発品を使う側の死神たちからは評価の高い男だった。
使い勝手が悪いというクレームがあれば、納得のもらえるまで、改良に改良を重ねる事は惜しまない。

「使えねえもんは、開発なんぞする意味がねえ。」
それが、阿近の信条だ。


喜助はそんな阿近を評価しているようだった。
自分の開発したものを、実際に利用する方法がないか、阿近に相談したりもする。
そんななか新しい製品が出来る事も多かった。

なにせ、阿近はもっとも実際の死神のニーズに近いところにいる男だからである。

対しマユリは、基本的に重要な研究部分は他人には任せない。
阿近はその重要部分が出来てから後の仕事を任せられる事が多かった。
しかし、マユリは一度没頭すると期限など忘れてしまうタイプであったたため、阿近が納期に間に合うように、しわ寄せを食らう事も多い。

だが、基本的には研究はその個人に全て任せられている。

気の会った同志で共同開発することもあるが、そんなことは稀な世界だった。

比較的に常識人の部類に入る阿近だが、やはり技術開発局の一員と思われるところもある。
自らの肉体をも研究材料と考えるところだ。

阿近の頭部には突起物がある。
これは生まれつきではない。
彼が自分で自分の肉体に付け加えたものだ。

離れていても霊子コンピュータとアクセスできるようにしているとも、猛毒の空気の中でも通常の呼吸が出来るようにしているとも、噂されているが、本人から語られる事はない。

阿近はマユリの喜助に対するライバル視を冷めた眼で眺めていた。

「ま、涅が浦原さんに勝つこたねえな。
あの人の情熱はスゲエけど・・・。
閃きが違うんだよな〜〜〜。
浦原さんと俺たちとでは。

ま、所詮頭の出来が違うんだよ。

別に全部が全部浦原さんみたくなる必要はねえし。
やりたい事をやってたほうが、利巧っていうもんだぜ?」


・・・今日も外部から見れば、異常な日常が行われる技術開発局。

しかし、彼らにとってはそれこそが、「普通の日常」なのである。





なんちゃって。

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