食卓とは、囲まれてこそ食卓なり(浮竹十四郎)

「あ〜〜〜!!最後のじゃがいも、兄ちゃんが取った〜〜!!」
「うわ〜〜ン!!ボクのおかず、姉ちゃんが〜〜〜!!」
「お母さ〜〜ん!!チビがまたご飯ひっくりかえしてるよ〜〜?」
「お母さん〜〜〜!!ご飯おかわり〜〜!」


浮竹家の食事の時間は絶えず賑やかだ。
もう少し正確に表現するならば、毎食毎食が弱肉強食の戦いなのである。


浮竹は、貧しい貴族の長男として生まれた。
そして、幼い時、肺病を発病し、死の床をさまよった挙句、なんとか命を取り留めた。

浮竹が、命を永らえるためにその時払った代償は、髪の色だった。
以来、浮竹は白髪となった。

だが、肺の病は患ったままだ。

更に浮竹家は多産だった。
浮竹の下には何人もの妹や弟がいる。

貴族に生まれた以上は皆霊力を持っている。
霊力を持つ以上は、腹が減る。


・・・・・何人もの子供の食費、そして浮竹の肺の病のための薬代。

下級貴族ならば、当然生活は困窮する。


限られた食事を皆で食べる。


争いながらも子供たちは、生まれたときから知っていた。
皆で分け合って食べるのだ。
どんなに小さなものでも、兄弟の数だけ分け合って。

年齢の大小によって、分量は変わっても、幼い者が全く食べれないという事はない。

皆腹いっぱい食べたいという気持ちはある。
だけど、それはやってはならない。




これが、浮竹家の鉄則だった。


肺病を患ってこそしていたが、幼い時より浮竹の霊力は突出していた。
死神になれば、生活はずいぶん安定する。
浮竹は幼い頃より、死神になることを決めていた。

幼い時から優秀だった浮竹だ、
そう考えるのは、当然の事だろう。

ただ・・・阻害要因が一つだけった。

それは・・・浮竹の肺の病の事だった。


真央霊術院の入学試験の日が近づいた2日前の事だ。
浮竹が高熱を出した。
浮竹は一度発熱すると、3,4日は熱が引かない。
それも、起き上がれないくらいの高熱だ。


・・・浮竹が試験を棄権する事は誰の目にも明らかだった。

試験前日。


浮竹の熱はまだ引かない。
浮竹の両親は、今年の受験をあきらめていた。
何も今年に限った事ではない。来年また受ければいいと。

だが、幼い子供たちにはそんな事は理解できなかった。


「にいちゃん・・・?」
おそるおそる、浮竹が寝込んでいる部屋に弟妹たちがやってきた。
「・・どうしたんだ?お前たち。」
起き上がることすら出来ない浮竹が問う。

「あのね?明日お兄ちゃん大事な試験なんでしょ?
だから・・・これで、元気を出してもらおうと思って・・・。」

一人一人の手が何かを差し出した。
飴だ。
おやつの飴を差し出している。

貧しい暮らしの中で、おやつは子供たちにとって最大の楽しみだった。
1日のうち、何を楽しみに過ごしているといえば、3時に親からもらえるおやつである。

そのもらった飴を、浮竹の全ての弟妹が差し出したのであった。
つらいのだろう、一番小さな弟は涙目だ。
しかし、自分の意思で差し出していた。

「・・・お前たち・・・。」

浮竹はそのまま言葉を失った。
彼らの思いをこれ以上なく、理解しているからだった。

「・・・ありがとう・・。兄ちゃん・・明日は必ず受かる。
お前たちの誠意にかけて、そして俺自身の誇りにかけて絶対受かってみせる。」

浮竹は、飴を受け取った。
とても食べられる体調ではない。
しかしそれでも、受け取った。

これは彼らの思いなのだ。
返す事はできない。


・・・・試験当日。

浮竹の姿が試験会場にあった。
当然、熱は下がっていない。
しかし、普段とほぼ変わらぬ浮竹がいた。

実はその時、試験会場に持ち込んではならぬものを持ち込んでいた。
小さな巾着だ。
中には弟妹たちの思いがある。


そして・・・・浮竹は見事優秀な成績で合格する。
合格通知を聞いて、浮竹は弟妹たちに例の飴を返した。

「ありがとう。これが俺の力になってくれた。」と。

まさか、戻ってくると思っていなかった弟妹たちは躊躇いながらも喜んでいた。
さっそく、包みを開けようとした、下の弟がこう言った。
「あ。これ飴が紙にくっついている〜〜〜!」
「あ、ホントだ!!」

それに対し、浮竹は頭をかいてこう詫びた。
「スマンスマン。お守り代わりに試験の時に持っていったもんだから・・。体温でちょっと溶けたみたいだ。」



そして・・・・無事死神となった浮竹・・。

死神になって以来、浮竹は実家に仕送りを欠かさない。
彼にとってはそれは、ごく当然のことなのである。
浮竹が、階級を上げるたびに、弟妹たちから手紙が届く。

内容は、今まで食べた事のないものを初めて食べた、とか、念願のものを腹いっぱい食べられたというような、たわいのないものだ。


・・・・・そして、十三番隊。
「ああ?何てめえ、俺の魚食ってんだ、清音!!」
「アンタだって、さっきあたしの煮っ転がし食べたでしょ?!!この足クサ男!!」

「こらこら。お前たち。喧嘩をするんじゃない。」

ここでも、隊の食卓は賑やかだ。
事情が許す限り、浮竹は皆で食卓を囲む事を好む。

そこでは階級の上下に関わらず、同じものを食べる。


何時も賑やかだ、喧嘩も絶えない。
しかし、誰もがその時間を楽しんでいた。


そんな、部下の姿を見ながら浮竹は思う。

『あいつらも・・・相変わらず喧嘩しながら食っているのかな・・・・。』

階級が上に上がるたびに、帰省する回数は明らかに減っていた。


だが、浮竹は変わらない。

・・・彼の部下も、彼の家族も変わらぬように。

固い信頼の絆。


それが、ともすれば死の淵へ引き擦り込もうとする病から、浮竹を繋ぎ止めるものである。


囲まれた食卓。



それは、そんな浮竹の象徴だ。




なんちゃって。

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