少年は虚圏を目指す(黒崎一護)
・・・・井上がいなくなった。
急にだ。
誰にも何にも言わずにいなくなっちまった。
残されたのは、寝てる間に完全に治っていた俺の両腕に残る・・・僅かな霊圧だけだ。
浮竹さんからの報告で、井上が破面と遭遇したことを知り、山本のじいさんからは、井上が自分の足で虚圏に行ったと告げられた。
自分の足で虚圏へ井上が行った?!
は!!冗談じゃねえ。
自分の意思で行くわけねえだろうが!
誰にも何にも言わねえで!!
そんなこと、あるわけがねえ!!
・・考えるのは一つだ。
『脅されて、行くしかなかったんだ。』
あいつは、自分が危険だからと言って、破面の言う事を聞くやつじゃねえ。
自分以外の奴が危険になると脅されて、言う事を聞かされたんだ。
井上は優しい。
誰かが傷つくくらいなら、自分が傷ついた方がマシって言う奴だ。
恐らく・・・俺達の事で脅されたんだろう。
実際・・・俺たちは、破面の奴らに対抗できる力なんて、まだ持ててねえんだからな・・。
山本のじいさんからは、死神を全て尸魂界に引き上げると告げられた。
俺だけでも虚圏に行かせてくれという、頼みも断られた。
「お主一人で何が出来る。
無駄に命を捨てるだけじゃ。
命は勝てる見込みのない戦いにおいて散らすより、勝てる見込みのある戦いで賭けるべきである。」
じいさんが言いたい事は俺にもわかる。
俺だって、可能性が限りなくゼロに近い事くらい、承知の上だ。
普通の奴なら、止めるだろう。
でも・・ホントにこれでいいのか?
こんなのを放っておいていいのかよ!!
井上は俺達の命を助けるために、虚圏へ向かった。
自分を犠牲にして、俺達の命を守った。
虚圏には藍染がいる。
・・・尸魂界を滅茶苦茶にした藍染が。
藍染は井上の能力に目をつけて、虚圏に連れ去ったらしい。
ということは、直ぐに殺されるなんてことはしないはずだ。
だけど、研究材料として井上を利用する事だけはハッキリしている。
井上が自分の言う事を聞かないなんてことがあれば、何をしてくるかは分からねえ。
その前に、助け出さねえと・・・!!
『井上を助け出す』。
なあ・・やっぱバカみてえだって思うか?
俺は藍染にコテンパンどころか、指一つ傷つけられなかった。
・・・・それだけじゃねえ。
あいつの部下の破面共にはもう、3回も負けてる。
3回目は、修行してそれなりに自信がついてから戦ったんだが、腕の無え破面にまで負けてる。
そんなで、それでも虚圏に行くなんて、ヤッパ馬鹿みてえか?
ま・・そうかもな。
・・・でも・・・・
『だからって、井上が虚圏に連れ去られた事は見過ごしていいのか?
井上を脅し、連れ去ってもいいのか?』
絶大な力を持つからと言って、何をやっても許されるわけじゃねえだろ?
連れ去られた奴は連れ戻さねえとな。
「目の前の壁が大きすぎると、諦めるか困難を迂回する。」
確かにそれはある意味利口な選択かもしれねえ。
でも・・・壁は何時まで経ってもそこにあるんだぜ?
俺はその壁を手に持った小さな金槌で叩いてるようなもんだ。
もっと大きな金槌があったらいいんだけどよ。
残念ながら、今の俺にはこれっきゃねえ。
それが今の俺の力だ。
それでも、俺はやってやる。
俺は今の俺に出来る事をやる。
それは、現世で井上を心配する事じゃねえ。
虚圏に井上を助けに行く事なんだ。
無茶は承知だ。
覚悟は出来てる。
結構、冷静なつもりだぜ?
なんせ、尸魂界にルキア助けに行く時も相当な無茶だったしよ。
俺は目的の為に無茶なことをやってる奴を、笑って見てるだけの奴には死んでもなりたくねえ。
俺は、目的の為に必死で無茶をやらかしてる奴で居続けたいんだ。
そう・・・いつだってよ。
なんちゃって。