タイフーン(石田雨竜)
・・・幼かった頃。
僕は台風が好きだった。
河川や海など特に危険な場所には当然近づかないように、学校及び家庭からも注意されていたし、僕自身無理に危ない事をする趣味はないけれども、普段水が流れているかどうかも分からないような小さな小川が、水しぶきを立てて流れる様は、幼い僕にとっても驚きだった。
昔は台風の時には雨戸を閉める家が殆どだったらしいが、今はガラスの強度が上がったため、台風が来たからと言って雨戸を閉める家庭は少なくなった。
僕の家庭でも雨戸が閉められるのを見たのは、数えるほどしかない。
しかし一度台風が近づけば、学校も休みになり、子供達は轟音を上げる風を、窓ガラスを叩きつける暴雨を、家の中でじっと眺めるだけとなる。
普段、雨粒がかかった事もない窓ガラスにびっしりと流れる、雨。
僅かな戸の隙間からは風が吹き抜ける、ヒューという音がする。
木は幹ごと風に揺れ、小枝は飛ばされ空を舞う。
自然に対する畏れ。
同時に僕は人知を超えたその力に、憧れを抱いていた。
「こんな力が僕にもあったら。」
どうするのかは、決まっていない。
ただ、純粋に力に憧れていた。
・・・・・力。
圧倒的かつ強大な力。
中学に在学中はそんな要求も次第に薄れていた。
しかし、高校になって、その思いは幼かった頃よりも強くなってしまった。
・・・・それは・・・。
その『力』をつかう目的を見つけてしまったから。
僕は力が欲しい。
しかし、僕は全ての力を失った。
『力』を使う目的を「覚悟」した直後の事だ。
失うきっかけとなった僕の行動は間違っていないと思う。
今でも同じことをやるだろう。
しかし・・・力を失ってしまった僕は、もはや『僕』ではないのだ。
力を取り戻したい・・・。
以前のような・・・いや、より強大な力が。
そう。台風のような。
台風は、産業はおろか、人々の生活にも大きな爪あとを残すこともある。
同時に、水の恩恵を与える事もある。
人々の生命をも奪う台風。
・・・それでも、僕はそんな力に惹かれている。
その恐るべき力を、僕が望む方向に向けられたら。
制御するのは至難の業だろう。
だけど、僕は持っている力を制御する難しさは、もう持っていない能力を蘇らせるほどは難しくはないと思う。
また、台風が近づいてきている。
嵐の予感だ。
・・・僕は幼い時のように、安全な窓ガラスの内側から外を眺めるだけでは、もう満足出来ない。
・・・・・・外で嵐と戦いたい。
そう・・・仲間と共に・・。
・・・・そうじゃないな・・。
・・・・台風になりたいんだ。彼らと共に。
・・・どこまでも・・・・・。
なんちゃって。