隊の鎖(恋次・ルキア・白哉)

・・言い争う声が聞こえる。
一人は男、もう一人は女だ。
単純に考えれば、色恋沙汰の縺れと思われるが、実際の所はそんな色めいたものの欠片も無い内容だった。

「何故止める、恋次!!
私は一護たちに命を助けられたのだぞ?!!
無論、井上にもだ!私は借りを返す義務がある!

お前に来てくれとは言わぬ!だが、私を行かせてくれ!」

「バカ野郎!!
予想よりも向こうの準備が出来てるって分かって、ただでさえ総隊長はピリピリしてんだぞ?!!
今お前が、総隊長の命令に逆らってみろ!
お前どころか、一護までとばっちり食っちまうだろうが!!」

「だからと言って・・・だからと言ってこのまま、井上を見殺しにしろというのか?!!
私に・・命の恩人を・・見殺しにしろと・・お前は言うのか・・・!!?」

感情を抑えきれぬように、恋次の胸倉を思い切り掴むルキアがいる。
恋次はルキアのしたいようにさせているように一見見える。

しかし、もしルキアが飛び出していこうとするならば、容赦なく当身を食らわせる覚悟だった。
ルキアと井上が友人としての絆を深めているのを知っている。
それだけにルキアの無念は、恋次には痛いほど分かっていた。

「・・見殺しになんかしねえよ・。
言ったろ?向こうが予想外に準備が出来てたって。
だから、こっちももう一度準備のし直しをしなきゃなんねえだろ?
それにメドが着きゃ、総隊長だって少しは態度を変えてくるさ。

今こっちはまだ体制の立て直しが出来てねえ。
だから今すぐ動けねえんだ。オメーも・・分かってんだろ・・?」

「・・・・・。
分かっている・・・。

だが・・・私は・・・。」

「俺も朽木隊長に相談してみっけどよ。
正直あの人の協力が得られるかどうかは分からねえ。

けど、あの人にとっても井上は恩人のはずだ。
きっと何とかしてくれるさ。」

「兄様が・・か・・?」
「ま、あんまり期待は出来ねえけどよ。じゃ、俺、隊に戻っから。オメーもバカな真似すんじゃねーぞ?」
「・・・恋次。」
「なんだよ。」
「・・・よろしく頼む・・。」

綺麗に腰を折り自分に向かって頭を下げるルキアの姿に、恋次は改めてルキアの心痛を知った。

六番隊隊舎へと向かう。
『・・オメーだけじゃねえよ。アイツ等に借りがあんのはよ・・。
俺だってあんだよ。

・・一護に・・山程な・・。』

隊に戻れば、白哉が変わらぬ無表情で仕事を続けていた。
「ただいま帰りました。」
「うむ。


・・・・。
・・ルキアは何と言っていた。」
「!!」
流石は六番隊隊長、朽木白哉だ。
恋次に僅かに残る妹の霊圧を感じたらしい。

「・・・・・・。
井上を助けに行きたいと言っていました。
・・一応は抑えてます。」
「・・そうか。

ところで・・恋次、質問したい事がある。」

改まった様子に恋次の背に緊張が走る。

「私は黒崎一護の考え方を、今ひとつ理解できてはおらぬ。
恐らくお前のほうが解るであろう。

・・・・あの男は・・
・・・黒崎一護という男は、総隊長に『待て』と言われて、大人しくしている男とお前は思うか?」
「!!!」

しまった!!と恋次は思った。その通りだ。真っ先に何とかしようと悪足掻きの上に、更に無茶苦茶をやらかすのが一護なのだ。
黙って大人しくしているはずがない。

「・・・してねえ・・と断言できます。」
キッパリ言い放った恋次に白哉が答える。
「・・・やはりな・・。」
「しかし、あいつは虚圏への生き方は知りませんし・・!!!!・・まさか!!」
「・・そのまさかの確率は高かろう。」
「しかし、いくら一護でもそれは・・!!」

「・・私は浦原喜助という男はよくは知らぬ。
しかし、尸魂界に潜入する事を手引きけした経緯からして・・一護の虚圏行きの手助けをする確率は高い。」

「しかし、何のために!言っちゃ悪りぃが死にに行かせるもんですよ?!!」
「・・解らぬ・。何か策があるのか・・。
しかし、一護の潜入によって、我々に一時的な猶予が与えられるのも、また事実であろう。」

「・・・俺たち尸魂界の恩人を・・今度は捨て駒にするんスか・・?」
唸るように問う恋次。流石に両の手が硬く握られている。

「・・・逸るな。
どの道我等は、護りの体制を再構築せねば動く事はできぬ。

話はそれからだ。

・・恋次。これを総隊長のところへ、持参せよ。
新たな防衛計画の素案だ。
戻れば・・そうだな・・少しばかり卍解の使い方を学んだようだから、私が見てやってもよい。」

膨大な書類。
恋次は僅かな可能性を見る。
「行ってきます。」
その後姿に白哉は声をかけた。

「恋次。我等は護廷十三隊に所属している。
それは護廷十三隊の援護を受ける恩恵と共に・・・」

「・・共に・・・何んスか・・」
「共に、隊の鎖で繋がれる事を意味するのだ。
・・・それはルキアも同じ事。


・・・あの男は奔放・・。


しかし、それゆえ、そのリスクを負わねばならぬ。

・・それが『隊の鎖』から放たれた者の宿命なのだ。」


「・・・行ってきます!!」

白哉の言葉は相変わらず冷たい。
しかし、その言葉の隅に、僅かばかりの可能性を感じる恋次であった。


・・それは・・・頑ななだった護廷十三隊の変化の兆しであるのか・・・。


・・・まだ誰も知るものはない。

「・・・どうか・・兄様・・。

どうか、お力添えを・・。」

ルキアには兄、白哉の力がイヤというほど解る。
それだけに、直接願う事はできない。
死神は、家族の情に流されてはならぬのだ。
四大貴族の朽木家ならば、なおさらである。

隊の鎖に繋がれた、一人の女性死神は・・・ただ・・祈るのみであった。





なんちゃって。

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