七夕に願いを(イヅル、恋次、修兵)

尸魂界。7月7日。

その日は朝から雨が降り続き、気温も平年よりも低かった。

現世で、朽木ルキアという死神が行方不明になったという以外は、平穏な日々が過ぎていた。

ルキアの幼馴染である阿散井恋次は、毒づきながらもかなり心配しているようだ。
先輩である檜佐木修兵が、そんな恋次を気遣って、酒場に誘った。
恋次の同期である吉良イヅルも一緒だ。

イヅルも、恋次のことを心配していたのか、忙しいだろうに二つ返事で了解した。


行きつけの酒場。
「おやじ、銚子4本。それと焼き鳥6人前。それと枝豆。後、適当に見繕ってくれ。」
「ヘイ。分かりやした。」

こういう時は必ず、修兵がしきる。
このメンバーではそれば何時しか常識となっていた。恋次やイヅルは特に食べたいものがあれば、各自付け加える。
「俺、出汁巻き卵。」
「あ、僕はおでん下さい。」

イヅルは冷え性だ。肌寒い日は必ず温かいものをたのむ。
「お前、おでんて・・今夏だぞ?」
恋次も必ずそこに突っ込むのが常だ。
「今日みたいな日は温かいものの方が体にいいよ?阿散井君。」


そこに、銚子とお通しが運ばれてきた。
「まあ、呑め。」
修兵が恋次とイヅルに酌をする。修兵への酌はイヅルがする。

「じゃ、お疲れ。」
「おつかれっす。」
「お疲れ様でした。」

皆が一斉に杯を傾ける。
そしてしばらくしてのことだ。修兵が話を振った。
「お前の幼馴染・・なかなか見つかんねえみてえだな。」
「けど、朽木さんの担当地域のホロウはちゃんと退治されているようですし・・。
それでも、行方が分からないというのは・・おかしいですね。」

「まったく・・何処ほっつき歩いてんだ、あのやろう。」
ぐいと、杯をあおる恋次。
やはり、心配なようだ。

「技術開発局のほうも、本腰で探すみてえだし、見つかるだろ。心配いらねえって。」
「・・心配なんてしてませんよ、あんな奴。」


暗くなってきた雰囲気に、イヅルが話を変える。
「そういえば・・・今日は現世で言えば七夕だね。」
「七夕?ああ、あの織姫と彦星とかいうのが会う日か。」
タバコの煙を吐きながら、修兵が言う。
「・・俺はその彦星とかいう、奴は正直バカだと思うぜ。」
不意に恋次が言葉を濁す。それに修兵が問うた。

「嫁さんもらって、骨抜きにされたからか?」
「ちがいますよ。ま、確かに骨抜きにされたって言うのも、情けねえ話ですけど、その後ですよ。

なんで、1年に1回しか会えない状況をなんとかしようとしねえのか、俺にはわからねえ。」
「お前だったらどうするよ?」
「俺ですか?俺だったら・・まず天帝に掛け合いますね。

ようは仕事をしなかったから、罰を受けたわけなんスから、今までの倍がんばりゃいいんですよ。
その代わりに、会う機会を少しずつ増やさせるんス。

嫁さんと一緒にいても、仕事を怠らないと納得させればいいじゃないっスか。
それを、悶々と会える日を待ってるだけなんざ、男のやることじゃねえ。」

「ま、お前のいうことも、一理あるわな。

俺でもそうすると思うけどよ。」

そこへ、イヅルが静かに話す。

「彦星は・・・自信が無いのかもしれないよ?阿散井君。


会う機会を増やして・・・もしまた心ここにあらず、という状態になってしまったら・・・年に1度の逢瀬も取り上げられかねないからね・・。

たとえば、1週間に1度会えるとする。
どうしても、その前日、いや・・・前々日からそわそわしかねない。
そうすると、仕事の能率も当然落ちる。

そうすれば、今よりも更に悪い状態になりかねないだろう?
状況を好転したいと思う気持ちはあるだろうけど・・それと同時にこれ以上失いたくない、という気持ちもあるんじゃないかな・・。」

「けっ。情けねえ奴。」
「・・・そうだね。

でも・・・それくらい織姫のことが好きなんじゃないかな・・。

一緒にいる時間が多くなればなるほど・・織姫のことしか考えられなくなる、と自覚できるほどに・。

だからこそ、今の現状でも耐えれるほどに。


僕はそう思うんだけどね。」

「やけに肩もつじゃねえか。吉良。」
「そうか。お前、彦星の気持ちが分かるってわけだ。
よし、俺が歌ってやる。

『吉良〜〜、吉良〜〜〜光る〜〜〜、おそらのイ〜〜ヅ〜〜ル〜〜♪』」
「恋次、止めろ。音痴が歌うんじゃねえ。周りに迷惑だ。


代わりに俺が歌ってやる。」←出た!喉自慢!(笑)

「先輩・・阿散井君・・止めてください。恥ずかしすぎます。」

「冗談だよ、冗談。そういや、七夕ってなんか願い事するらしいな。

じゃ、『ルキアちゃんが早く見つかりますように』!」
「あ、それいいですね。僕も『朽木さんが早く見つかりますように。』」
「ちぇっ・・。『ルキアのバカが早く見つかりますように。』」

3人で乾杯する。

「あ、しまった!!俺違う願い事したらよかったな・・・。」
不意に修兵が言う。
「なんスか?違う願い事って。」
「『タバコがこれ以上値上げしませんように!!』コレ切実!!」
「先輩は吸いすぎです。僕は倍額くらいになればいいと思いますけど。」
「・・・止めてくれ・・・考えただけで、暗くなるぜ・・。」



3人の願いが叶ったかどうかは分からない。

しかし、ルキアはまもなく現世で発見されることとなる。



そして、同時に・・・・




悲劇が始まることとなる。






なんちゃって。

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