誕生日(黒崎一護)

7月15日。
俺の誕生日だ。

けど、野郎の誕生日なんざ、自分からよっぽど宣伝でもしねえ限りは、見事にスルーされるもんだ。
イヤ・・・啓吾みてえに宣伝しまくっても、見事にスルーされる奴もいるけどよ。←

ま、ダチと食いに行ってちょっと奢ってもらうってのが、一番多いパターンじゃねえ?
たいがいの奴は、ちょっとテレが出て言わねえだろ。そんなもんだ。

そんで、前の一年で成長した所があるかどうかも分かんねえまま、その日を迎える。
体だけはでかくなってっけどよ。中身が成長してるかどうかなんて、自分じゃそうそう分らねえし。
ここが変ったって言える奴は、相当少ないんじゃねえかな。


けど・・俺は今年は言えるんだ。俺も。

死神になれるようになった。
まあ、事故みてえなもんだったけど、俺が今まで出来なかった事が出来るようになった。
死んだまま、尺魂界とか言う所に行けねえ奴を送ってやったり、虚になっちまったやつが、他の奴を襲うのを斬って止めることもできるようになった。

今までの俺は、死んだ霊と話す事くらいしか出来なかった。
そいつらの為になんか出来ることなんて何もなかったから。

ルキアの奴には、いいように使われてる気がすっけど、死神になれたのはまんざらでも無えかな。

誰かを助けるために出来る方法を手に入れたんだ。
それまで何も出来なかったころに比べりゃ、ずっといいだろ。

だから、今俺は毎日充実してると思う。
そりゃ、虚との戦いは命がけなんだけどよ。けど、それが誰かのためになるってんならいいじゃねえ?

体育の授業で着替えてる時に啓吾に言われた。
「一護・・お前この頃、なんか楽しそうだよな〜〜。」
「そうか?」
「そうだよ〜〜、なんか筋肉ついてきてっし〜〜。

あ!もしかして、俺に黙ってモテモテ計画とか立ててるだろ!!
体鍛えて、めくるめく夏のバカンスに備えようとか思ってるだろ!!
朽木さんといちゃこらするつもりだろ〜〜!

いいないいな〜!俺も交ぜろよ〜〜!」

「って、そんなんじゃねえ!」
ビシッとデコに突き入れてやったけど。

・・俺、なんか変わったのか?自分じゃ分らねえけど。
でも筋肉ついたって言っても、部活はやってねえから、死神で戦ってんのがそのまま出てる訳か・・。
でも、まあそれはいいとして・・・楽しそう・・か。

ピピピ・・・。
「!!」
携帯電話の着信音に思わず身構える。
イヤ・・ルキアのじゃねえ・・。

ふと気がつくと俺は、胸のポケットに入れてる義魂丸に手を伸ばしていた。無意識だった。
無意識に俺は、何時でも死神になれるように、身構えてやがった。

『一護・・お前この頃、なんか楽しそうだよな〜〜。』

その時啓吾の声が聞こえた気がする。
自分の部屋に戻って考える。俺は何が『楽しそう』なんだ?

人の魂魄を助けられることになのか?
本当にそうなのか?

もしかして・・・

『虚を斬るのが、ただ楽しいんじゃねえか・・?』
ゲーム感覚で、虚を斬ってねえか?ルキアに指示された虚を片付けていくのがただ楽しいだけなんじゃねえか?

「・・そんなわけ無えだろ・・。」

だが、完全に違うとも言い切れない俺がいる。
・そういや・・今までこんな事考えつきもしなかったな・・。
ただ、目の前の虚を片付けてただけな気がする。

『俺は何の為に死神やってんだ?』

周りのみんなを護りたいから。
それもなるべく多くの奴らを護りたいから。

本当の答えは、実は簡単で・・だけどその答えに行きつくまでに俺たちは迷いに迷う。

横道反れたり、逆走したり、行き止まりに行きあたったり。

でもその迷う時間が大事だという事に、俺たちはまだ気がつかない。
てっとり早い答えを求めてさまよい歩く。

でも、その答えを直ぐに見つけるのが一番というわけじゃない。
その答えになる式を見つけるのが、今の俺たちなのかも知れない。

だから、俺は必死であがく。
毎日を必死であがく。このあがきが何時か、答えを支える式になる。

高校1年の7月15日。

この日は新たな出発点でしかねえ。
果てしない俺だけの答えへの出発点でしか。

死神になれたのも、体に筋肉がついてきたのも。
単なる変化の兆しだ。

一年後・・俺は自分の進化を自覚出来んのか・・。それとも、後退に舌打ちすんのか。
そんなことは分らねえ。

けど、毎日必死でやるしかねえ。
何が起こっても、どんな状況になろうとも。

誕生日。

もしかして、この日を特別視すんのって、一年に一回くらいは自分を見直せって意味なのかもしれねえな・・。


そんで、もっと強くなりてえって思うためにあんのかもしんねえ。
とりあえずは、また一年・・頑張ろうぜ、俺。




なんちゃって。

inserted by FC2 system