助けられし者(檜佐木修兵)

「おい、聞いたか?!」
「檜佐木だろ?一回生の実習させてて、仲間死なせた上に一回生に助けられたってやつだろ?」
「そうそう!!六回生の筆頭がだぜ?!!1年坊に命助けられたってありえるか、普通。」
「これで護廷十三隊の話も無くなるんじゃねえ?1年坊に助けられちゃいかんだろ。」
「いい気味だぜ。優等生ぶりやがって。」
「よくは知らねえけど、育ちも悪いんだろ?そんな奴が俺ら差し置いて出世なんてありえねえよな。」
「それであいつ今どうしてんの?」
「怪我したとかで、出席免除で療養中だとさ。」
「体のいい謹慎か。こりゃますます入隊の話はねえな。」


『あ〜〜。今日はいい天気だな。』
ぼんやりと川の土手に腰掛けながら、俺は空を見ていた。
くわえた煙草の煙がゆっくりと空へ昇っていく。

・・・そういや、平日こんな風に過ごすのは初めてだな・・・。
学院時代の俺は、優等生を判で押したような奴だった。
理由?育ちが悪い俺が、お育ちのいい奴らを抑えて上に上がるためにはそれっきゃねえだろ?

とにかく護廷十三隊に入りたかった。
それが俺の夢だった。

だがそれもこれで終わりなのかね・・。

まことしやかに流れる噂。それはそれで信憑性はある。
俺は仲間を死なせちまったし、1年坊に命を救われた。
もっと付け加えれば、その1年坊どもは俺の命令を無視してる。
つまり俺は1年坊の生命に関わる命令さえも、満足に従わせられなかったという訳だ。
ま、入隊の話がチャラになっても不思議はねえわな。

別に助けられたことを恨んじゃいねえよ?
命あってのモノダネだ。これは古今東西変わりやしねえ。
顔の包帯は取れちゃいねえが、助かったのには感謝してる。

だが・・今までの俺の苦労が無駄になるのを惜しむくらいはおかしくねえだろ?

ごろりと草むらに横になる。

と、頭上から声が聞こえた。
「先輩、こんなところで何してるんです?」

俺を助けた1年坊だった。金髪の名前は・・・
「吉良・・だったか?お前こそ何やってるんだ。」
「午前で授業終わりなので、両親の墓参りへ。それで先輩が見えたものですから。寝てなくて大丈夫なんですか?」
「俺?大した怪我じゃねえよ。授業免除なもんで、ここで黄昏てる。」
「黄昏てるって・・・。何で黄昏てるんですか?」
「上級生には上級生の黄昏たくなる時があるんだよ。」
「もしかして、噂のことですか?」
「ちっ。そっちにまでいってんのか。」
「先輩、有名ですからね。でもあれはないと思いますよ?」
「1年坊に助けられた挙句、慰められるわけか。」
思わず苦笑が漏れた。

そんな俺を見て、吉良が話し始めた。
「実は・・僕も阿散井君も先輩の命に従おうとしたんですよ。それが・・」
「それが?」
「雛森君がおかしいって・・・それで僕らもつられてしまって・・」
「なるほど。俺は1年坊の女のおかげで生き残ったわけか。」
「そんな風にいわないでください。僕は先輩の命令は正しかったと思います。命令を無視した僕らのほうが悪いんです。でも・・・雛森君は少なくとも先輩を置いて自分だけ逃げることが出来なかったんです。」
「・・・そうか。俺は幸せ者だなあ。」
「そうですよ?」
「あ?」
「自分が未熟だって分かっていながら、それでも先輩を助けようとしたんです。そんな人なんて先輩以外きっといません。先輩は幸せなんです。」
「・・・。」
「噂なんて嘘ですよ。僕は先輩が護廷十三隊に入隊することを信じています。」
「・・・ありがとよ。」
「それで、待っていてください。後から僕たちが入隊するのを。必ず僕たちも続きます。
・・・それで、また僕たちを指導してくださいね?」
「・・・分かったよ。約束する。」
「よろしくお願いします。じゃ、僕は行きます。ちゃんと養生してくださいね。」
「ああ。サンキュ。」

そういって金髪の1年坊は去っていった。

俺は・・・それまで吸っていたタバコを握りつぶすと、立ち上がる。
そして戻り始めた。自分の部屋へ。

それから、3日後。
俺は学長のところへ呼び出された。
そして、入隊の正式通知を貰うこととなる。

なんちゃって。

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