戦いのたしなみ(剣八とやちる)

・・・更木剣八が入隊試験を受けず、前十一番隊隊長を一騎打ちで殺し、いきなり隊長の地位に就いた日から半年。

混乱を極めた十一番隊もようやく落ち着きを取り戻して来たところだった。

かといって、いきなり今までの隊長を殺された隊員の動揺は大きく、他の隊へ希望し移っていった者も多い。
尊敬していた前隊長を殺した者の下では働けぬという理由だ。
剣八はそういった者を、一切引き止めなかった。

「出て行きたいなら、出て行きゃいいだろうが?
構うこたねえ、さ、行きな。」

実にあっさりした返答だった。


残った者に対して、剣八が行ったことは、まず力の上下関係を見ることだ。
強い者から上の席を割り当てていく。
鬼道だろうが、剣だろうが、とにかく勝った者を上にした。

それまでの身分やコネなどを一切排除した実力主義。

その一貫した姿勢が、剣八が一気に隊の支持を受ける最初の要因となる。

それまで実力はあるものの、身分のせいで上に上がれなかった者たちが驚喜したからだ。
身分のせいで実力の無い貴族に仕えることに、不満を持っていた者たちがいかに多かったかうかがい知れよう。

それを聞いた他の隊に所属しながらも、身分の階級制度に不満を持っていた者は、逆に十一番隊に希望する者も増えたそうだ。

剣八は実にシンプルな男だった。
「うちの隊では強さが全てだ。
自信があるなら、俺を倒して隊長になってみろ。

俺はいつでも受ける。いつでもだ。

それと戦いはタイマンでやれ。
徒党を組むこたぁ、てめえが弱えって言いふらしてるみてえなもんだぜ?


ま・・俺のほうはいいけどよ。面どくせえし。
手間が省けていいってもんだ。」

なにせ、入隊試験すら受けていないのだ。
やること言うことが、規格外の男だった。


隊がまとまりかけて来たというのに、剣八の機嫌は良くない。
いや、月日が経つごとに不機嫌になっていくようだった。


「剣ちゃん、面白くなさそうだね。やっぱりヒマ?」

ただでさえ刀傷のある大男が不機嫌なのだ。
普通であれば声をかけることなど出来ないだろう。
ましてや、剣八は隊長を殺してしまうような男なのだ。
しかし、彼の副官である、やちるには関係ないことだった。

「・・・まあな。」
やはり不機嫌そうに返す剣八。
「この頃戦ってないもんね〜〜。剣ちゃん。」

「全くだ。護廷十三隊の隊長にでもなりゃ、強ええ奴と殺り放題かと思いきや、とんだ見込み違いだぜ。

たまに来る話は、弱ええ話にもならねえ奴ばかり。

まったく・・つまらねえな・・。」

心底、暇をもてあましているようだった。

「といっても、そんなに強い奴なんていないしぃ〜〜。

あ!やちるいい事考えた!!」

「・・なんだよ。」
「あのね?向こうが弱いんなら、剣ちゃんがハンデつけてあげるっていうのはどう?」

「ハンデ・・て、どんな。」
どうやら、興味を持ったらしい。

「う〜〜ん、霊圧を抑えるような物をつけてみたり、利き手を使うの止めてみたりとか。
面白く戦えるレベルまで、ハンデをつけるの。

そうすれば、弱い相手にも楽しく戦えるでしょ?」


「なるほど・・こっちがハンデをつけるか・・。
そいつは・・おもしれえな・・。」

「でしょ?これから一緒にどんなハンデがいいか考えようよ!!」


「よし。じゃ、頭に鈴を仕込んでこっちの位置を知らせるっていうのはどうだ?」
「う〜〜ん・・やちるは着ぐるみの方がハンデつくと思うけどな〜〜。
あ、可愛いのにしようよ!くまさんとか・・・でも剣ちゃんならオオカミさんとかかな〜〜。

やちる、絶対応援する〜〜!」

「いい・・・ハンデは自分で考える・・。」
「ええ〜〜〜?やちるも一緒に考えたいのにぃ〜〜!
剣ちゃんのケチンボ!!」
「ケチで上等。
誰が着ぐるみなんぞ、着れるかよ。」

戦いを楽しむ為に、自らに制約を課す。
剣八ならではの「戦いにおけるたしなみ」の誕生した日であった。


・・・・強さへのあくなき執着心。

戦いを楽しむなら、自分の生命も顧みないという豪放たる精神。


それは静かに隊の者にも伝わっていく・。



そして・・十一番隊が最強の隊と言われるようになる。


隊員は自らの隊を誇りを持ってこう言うという。

「俺たちは、『更木隊』だ。」と。






なんちゃって。

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