父の作法(石田竜弦)

・・昨今、世の父親というものは、子とよく遊び、よく話をし、家庭のことにも積極的に関わるべし、というのが主流のようだ。
子の良き理解者であると言う事を、子自身に示さねばならないのだと言う。

下らん。

無論、その考え方をとやかく言うつもりはない。
そう思うのであれば、そうすればいい。
世の主流がどうであろうことなど、私の知ったことではない。


私に言わせると、父は子に理解される必要など皆無であるし、子の理解者である必要もない。
父は子に憎まれるのが役目だ。

・・特に子が男である場合はな。

男に生まれた以上は、全ての他の男がライバルとなる。
そして、男が最初に対するライバルとは、父親である事に他ならない。

子はその父を越えようとするとこから、成長していくものだ。
子に愛される必要などない。
子に理解される必要など皆無だ。
父は子に憎まれ、超えようとする存在であり続けなければならない。


そして・・無論、私の息子、雨竜は私を憎んでいる。

恐らく私が滅却師であったことも、自分が一人前の滅却師として祖父に認められていなかったと言うことも、衝撃をあたえただろう。

・・それでいい。

お前は未熟だ。それも反吐が出る程の未熟者だ。
滅却師としての誇りだと・・?
そんなことは、一人前の力をつけてから言ってみることだな、雨竜。

お前は未熟な上に甘い。
その甘さが、今後お前の命取りになってくるだろう。

一度戦いに赴くのであれば、非情でなければならない。
なりきれぬのであれば、戦う資格はない。

それが戦場だ。

『今後一切死神とは関わらない』
お前が私の条件をのむ事は、最初から分かっていた。
それ以外方法がないからだ。

そして、黒崎の息子の為に、下手な理由をこじつけて飛び出していく事も私は知っていた。
さぞかし、無様な理由を並べ立てるに違いない。

・・・下らん。

雨竜の能力を戻した所で、直ぐにまた戦いになる事は分かっている。
これ以上無様な姿をさらさないよう、せいぜい鍛えてやったつもりだ。
一応はこの私の血を引く者だ。
あまり無様な姿をさらされては、ひいては私の名まで落としかねないからな。

・・もっとも・・・向こうはそうは思っていないかもしれないが・・。
いたぶられているとでも思っているかもしれない。
無論、こちらはその方が都合がいいが。

正式な滅却十字はくれてやった。
武器庫の場所も教えてやってある。

後はどう動くかは、あれ次第だ。


私の所へ挨拶に来るようなら、無論私は許可しない。
約束を反故にした事を、存分に責め立てるつもりだ。
それが分からぬようなら、戦いに赴くつもりなど無いだろう。

出立の挨拶なんぞは不要だ。
私も見送るつもりはない。


あれも男だ。
自分の進むべき道は、自分で決める年だろう。


・・・私が鍛えた能力をどう使うかはお前次第だ、雨竜。



・・そして・・・・



・・・生きるも死ぬもお前次第だ。


私の役目は、お前に憎まれる事だ。


そして・・・いつか私を超えたお前を見ることだと思っている・・・。



私は見送りなどしない。


私を見返したければ・・・まずは戦いに勝って帰ってくることだ。



私は現世で帰りを待つ。



それが・・私の父としての作法なのだ・・。





なんちゃって。


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