とかく人は面白い(市丸ギン)

意外かどうかは解らないが、市丸ギンは他人と接するのが好きだ。
ふらりと出掛けては、自隊である三番隊は勿論、他の隊まで様子を覗きに行く。
男だろうが女だろうが、誰彼構わずに気さくに話しかける。

本能で危険を察知して逃げる者もいるが、多くはふだん雲の上であるはずのギンから話しかけてくれるのだ。舞い上がってしまう者も多い。
しかも、女性死神に関しては褒める言葉を惜しまないので、ファンは多かった。

他人と接すると自分がどう見えているのか、相手が教えてくれるものだ。
向こうが警戒しているというなら、自分が危険だと認識されているという事だし、顔を赤らめて恥ずかしそうにしているのなら、自分が憧れの対象として見えているということだ。一部は恋愛の対象として見ているのかも知れない。


市丸ギンは好奇心旺盛だ。
そして、無類の悪戯好きの性格である。

どちらかというと、好意的な反応を示すものよりも、嫌悪を滲ませるタイプの方が好きだった。
もっと言えば、自分を嫌っていて尚且つ強いタイプが好きだった。

理由は探すのがより楽しめるからだ。
何を探すのか。

・・・言わずと知れた、「弱点」を探すのである。


どのように強い者もどこかに弱点というものを持つものだ。
そう、それは護廷十三隊の隊長といえども当てはまるものなのだ。

市丸は話す事も好きだが、より様子を見ているだけの方が好きだ。
隊長格ともなれば、そうそう自分の弱点らしきものなど見せないものだが、必ずある。

たとえば、総隊長の山本は「老い」という弱点を持つ。
確かに実力は相当なものだが、「老い」は徐々に山本の体力を奪っている筈だ。
山本は現役の死神である事に誇りを持っている。
自らが衰えて行く姿は見たくないだろう。

十三番隊の浮竹も同じだ。
病で衰えて、戦力外通告を出されることはある意味覚悟しているとは言え、恐れている筈だ。

浮竹の同期である八番隊の京楽は、その点見えにくい存在だ。
敢えて言えば、争う事を嫌っている節がある。争いによって周りの者が・・そして自分が変わって行くのを見たくないのかも知れない。

ニ番隊の砕蜂は簡単だ。「四楓院夜一に嫌われた」とデマを流すだけで暫くは再起不能になるはずだ。

七番隊の狛村は人から拒絶されることを恐れている。
あの外見だ。仕方がない。
「でもまぁ狼苛めても面白ろないし。」

あまりにも簡単すぎると、逆に苛める喜びは無くなるものだ。

十一番隊の更木と十二番隊の涅はお互い反目しあっているが、実は二人ともよく似ている。
彼らの大好きなものを取り上げてやればいい。
すなわち、「戦い」と「研究」だ。

十番隊の日番谷などは苛めがいがあって大好きだ。
自分が子供なのに、幼馴染はアダルト好きだ。
「ホンマに気の毒としか言えんなァ。」
独り言を漏らすギンの口角は無論何時もよりも上がっている。

六番隊の朽木白哉も分かりやすい。
死神に情など無いと言いながら、義理の妹への過保護ぶりはどうだ。
たった一人の家族となった義妹を亡くすのが怖くてたまらないのだろう。
「・・まあ・・あの性格やから素直には認めへんと思うけど。」


次に頭に浮かんだのは、ドレッドヘアの盲目の同僚だ。
「まァ・・・東仙もマジメやからなァ・・。」
正義と平和ばかりを口にしているが、どの状態の事を意味しているのか、ハッキリした事はギンにも分らない。
余裕がなくて杓子定規。悪いが苛める気にもならない。自己崩壊型だからだ。

だが、残りの二人は面白い。
四番隊の卯ノ花と五番隊の藍染だ。
二人とも筋金入りの猫かぶりだ。

穏やかで優しく面倒見がよく、尚且つ聡明という意味では共通しているが、本性はどうだか知れたものではない。
少なくとも冷酷かつ計算高いことでは共通しているだろう。

まあ、言うならその化けの皮を自分で脱ぐならともかく、他人によって外されるのは流石のあの二人も屈辱となるだろう。
「・・・もっとも、その後は怖そうやけど。」


誰にでも弱点というものがある。
これがギンの持論だ。
強ければ強いほどその弱点を上手く隠すものだ。
一見完璧に見える者にも必ず弱点はある。

見えていないだけなのだ。
何故ならそれはほんの小さな<点>なのだから。

弱点に対になる言葉は無い。強みは面で構成されるものだからだ。だから、長所といったように<所>という文字が使われる。

人間観察は面白い。
その隠された点を、眺めながら見つけ出して行く。

見つけた点は<斬って>はならぬ。
折角の点なのだ。そこを<突いて>こそ意味がある。


・・ある日の隊首会。
総隊長の山本が、議題を進めながら何やら手のツボを押している。

『・・・あそこのツボは確か肩コリやったかな?
おやまあ、お気の毒に。

総隊長も大変やねえ。』


人ほど見てて飽きぬものは無い。
ちょっとした仕草が、ギンに多くの事を教えてくれる。
だが、人はその何十分の一も表にはしないだろう。

それを見ているギンだけが知っている。


とかく人とは面白い。

ニヤリと笑って山本にジロリと睨まれるギンがいた。






なんちゃって。

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