解き放たれし桜(朽木白哉)

・・・・海燕。
兄の心境とはこういうものであったのか・・・?


・・・私は一護に敗れた。
全力を出し、そして敗れた。
私の振るう『掟』という名の剣は、一護の振るう『奔放』という名の剣によって砕かれた。

・・・敗れたことに悔いはない。
いや・・・敗れたにもかかわらず、私は今、かつてないほどの開放感を感じていた。
掟という名の何重にも巻かれた鎖から解き放たれたかのごとく。
何ものにも囚われぬ心境。
敗北して初めて知ることとなるとは・・・。


「白哉。お前、緋真さんをどうするつもりだ。あのままにしとく気じゃねえだろうな。」
「兄には係わり合いのないことだ。海燕。口出しは無用。」
「惚れてるんだろうが!!何故嫁さんにしてやらねえ!!」

・・・妻にだと?
出来るものなら、とっくの昔にやっている。

・・・私は緋真を屋敷に住まわせていた。
・・・妻にしたかった。
しかし、貴族でないものが朽木家の妻になることなど出来ぬ。
・・掟だからだ。
四大貴族にとって婚姻は最も掟の厳しい部分だ。
血統を保つべく、事細かい掟が存在する。
緋真を妻にすることなぞ、不可能だった。

妻にすることは出来ぬ。
そのかわりに私が妻を迎えることはあるまい。
そう決心していた。

私は貴様などとはちがう。
自由に妻を迎えることなど出来ぬのだ。
・・貴様などには分かるまい。

「知ってるぜ?貴族じゃねえからだろ?だから緋真さんを嫁さんにしねえのか?」
「・・・ほう。流石は元四大貴族の一族だな。分かっているなら議論は無用だ。失礼する。」
「何が四大貴族だ?!何が掟だ?!!
自分の惚れた女も、嫁さんにも出来ねえなんぞ、腰抜けの言い分だ!」
「・・・・なんだと?」
「お前、今緋真さんが屋敷でどんな思いをしているか知っているか?
お前がいない間、どんな仕打ちをされているか考えたことがあるのか?
てめえの惚れた女も満足に護ってやれねえで、一体何を護るんだ?
掟が邪魔なら、それと戦え!!
それが男って奴じゃねえのか?!!」
「貴様の知ったことではない。これは私の問題だ。」
「おい、待て!!白哉!!」

私が留守の間の、緋真に対する仕打ちだと?
・・・・胸騒ぎがした。
そして、その日。
私は予定を大幅に切り上げて屋敷に戻った。

・・・そして私が見たものは・・・・。
泥棒ネコ、売女と蔑まれ、罵声を浴びせられている緋真の姿だった。

・・・・知らなかった。
緋真はいつでも笑っていた。
・・・・私に心配をかけまいと、ずっと耐えてきたのか・・・!

『掟が邪魔なら、それと戦え!!』
悔しくも、あの男の言葉が聞こえた。
そして、私は心を決めた。
・・・緋真を妻にすることを。

次の日、あの男にそのことを告げる。
「そっか。よかったな。」
実にあっさりした返答だった。
きびすを返した私に、急にあの男が呼びかけた。
「白哉。」
「・・なんだ。」
「見直したぜ?」
「・・・失礼する。」

そしてほどなくして、緋真は私の妻となった。



ぐらりと体が傾ぐ。
・・一護め。やってくれたものだ。
しかし自然と笑みが漏れていた。
私は・・・最早ルキアを殺さなくてもよいのだ。

緋真・・・。ようやくお前との誓いを果たすことが出来る。
妹を・・ルキアを護るという、お前との誓いを。


・・・海燕。
私は兄がうとましかった。
掟に縛られた私とは異なり、自由奔放に振舞える兄が。

兄の心境とはこのようなものであったのであろうか。
兄が生きていたら・・・。
一度語り合ってみたかった。

そして、一護と兄を会わせてみたいものだ。

きっと兄とは話が合おう。

そしてやはり私とは・・合わぬであろうな・・。

・・・海燕。

なんちゃって。


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