床に伏すのもたまには良き哉(朽木ルキア)
・・私は先のバウンドとの戦いにより、直接魂魄へのダメージを食らった。
霊力が戻っていない上での事だった。
それゆえ、私が負ったダメージは想像以上に大きく、暫くの絶対安静を四番隊の虎徹勇音副隊長から言いつけられたのである。
バウンドとの戦いで傷ついたのは何も私だけではない。
恐らく大多数の者たちは、残務処理に追われていることだろう。
・・・歯がゆさが残るが、浮竹隊長、虎徹三席はおろか兄様にまで「・・暫く安静にするように」と命じられている。
大人しく寝ているしかない。
とはいえ、横になっていても考えるのは此度のバウンドの事ばかりだ。
回転する運命。
狩矢はその運命の歯車から取り残された己を、なんとかしようと此度の氾濫を企てた。
そうなることになる原因を作った尸魂界を呪い、恨み、自らと一緒に消滅させて終わらせようと考えた。
結果は・・虚しさと・・多大な被害だけが残っている。
運命を変えるのはたやすい事ではない。
だからといって、そのまま諦める事も出来ない。
我々は・・その苦悩の狭間で絶えず揺れているようなものだ・・。
・・一人でずっと考えていると、気がめいる事ばかりを思ってしまう。
そんな時、開け放たれた障子から新鮮な空気が流れ込んで来る。
今日はいい天気だ。
それゆえ、少しの間であれば、と障子を開ける事を許されている。
此処から見えるのは、庭園だ。
兄様が、眺めのよい部屋を、私の病室にと用意してくれたと聞く。
・・ありがたい。
時折聞こえる鳥の鳴き声を聞き入るうちに・・どうやら私は眠っていたようだ。
・・・争う声が聞こえる。
どちらもよく耳に馴染んだ声だ。
争うと言っても、大した内容ではない。
下らぬ内容で、こんなにも熱くなれる奴らといえば・・・一護と恋次だった。
恋次は一護に負けたことを未だに気にしているらしい。
卍解を副隊長の身で会得したのだから、胸を張ればよいと思うのだが、一護に未だ及ばぬ事を感じておるようだ。
一護も無意識でその事を口にするものだから、恋次のトラウマはさらに大きくなっているのかもしれん。
・・・気持ちは分かるのだが・・・一応病人の目の前だぞ、貴様ら。
と思っているところを、兄様が先にたしなめてくれた。
子供のように首を引っ込める様子が可笑しいものだ。
・・・お忙しいと思われるのに、兄様は帰られれば必ず、様子を見に来てくださる。
と言っても、兄様は気配を感じさせぬので、起きているときしかお会いできないが。
必ず様子を見に来てくださっていると知ったのは、病室の花が毎日替えられるようになったときだ。
替えてくれるのは、女中の方なのだが、「白哉様に、毎日花は替える様にと言われましたもので。」と言っていた。
・・なぜ、花が変わっておらぬ事をご存知なのか・・。
それを考えると、どうやら兄様は様子を見に来てくださっていると気づいたのだ。
一護も現世に帰らねばならぬのだ。それなのに此処まで来てくれた。
恋次も残務処理で忙しいのにだ。
みんな私の事を案じてくれているからこそだ。
・・ありがたい・・・。
床に伏せるのはつまらぬ事だが・・・。
・・・・たまには良いのかも知れぬな・・。
無論、早くよくなって働かねばならぬし、その方が私にも向いている。
しかし・・今はこの幸せを、味わう事にしよう・・・
・・・・そしてまた・・戦いの地に赴けるように・・・
なんちゃって。