遠き背中(白哉と恋次)

・・あの旅禍の一件以来。

恋次の私を見る目が変わった。
以前のような、唯ぎらぎらと獣が食いつく瞬間を窺うかのようなものではなく・・・
我武者羅な自への焦り・・そして激しき苛立ちがそこにはあった。

だが・・・今は静かな落ち着きがそこにはある。

ただし私を目標とするなどという愚かな目標は未だに捨ててはおらぬようだ。
目の底には、いつか私を超えてみせるなどという下らぬ闘志が見える。



・・あの一護の一件以来。

俺があの人を見る目は変わった。
それまでは、ただあの人の背中が遠くて・・必死に修行してもどんなに努力しても追い付けねえ自分に苛立って・・・そして完璧すぎるあの人を羨んでいた。

だが・・・あの人も悩み、そして敗けることがあるんだと俺は知った。

妹であるはずのルキアを掟だからと見殺しにする。そんな非情さを俺は理解できなかった。
しかし、そこまで非情になりきれるあの人をどこかで尊敬していたのかも知れねえ。
・・平気なワケねえのにな。
たった一人の妹なんだ、いくらあの人だって平気なワケが無え。

・・あの人も、苦しんでたんだ。いや、苦しむことがあるんだ。
完璧すぎて、俺とは別の生き物みてえに思ってた。けど、あの人にも俺と同じ感情がある。
悩み、苦しむという感情が。
そして、一護に先を越されたのは癪に障るが、敗けるってことだってある。

それを知って俺はあの人を見る目は変わった。
確かにあの人の背はまだ遠い。
けど、絶対に届かねえってわけじゃねえ。俺次第だが届く余地はある。

それを知って、なんつったらいいのか・・安心したつったら良いのか。
俺の中で、あの人をもっと落ち着いて見れるようになった。



恋次の刃が私に届く事は永遠にないと思っていた。
だが、傷つき倒れながらも恋次は私に刃を届かせた。
もっとも・・・傷一つ私は負ってはいないが。

その事については、恋次、お前の力を認めよう。

だが・・そこまでだ。

・・・何を安心している。
私が黒崎一護に敗れたからと言って
・・・・よもやお前も勝った気になっているわけではあるまいな。
お前との差は縮んでなどいない。お前が私との差を縮めようとするならば、私はさらにその差を広げるのみ。

・・お前が私を超える日など無い。永遠にだ。
いや・・私のこの背に触れることすら出来ぬ。



・・・不可能なんかじゃねえ。あの人に追いつくのは。
確かに差はだいぶあるが、出来ねえ訳じゃねえ。
あの人の強さは知っている。
あの人の強さは俺と違って、剣にも鬼道にも歩法にも隙がねえ強さだ。
俺は鬼道はサッパリだし、同じように強くはなれねえだろう。
馬鹿みてえに力技だけだって言われても良いさ。

その力技でいつかあの人を超えてやる。

今は遠いあの人の背中に・・・俺の蛇尾丸を届かせる。
そう・・絶対にだ。



・・恋次・・・。
お前は私の背を追っていればいい。
永遠に届くことのないこの背を。







なんちゃって。

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