問われぬ処刑の意義

『霊力の無断貸与及び喪失そして滞外超過』
・・・・それが極囚の罪状だった・・・・。


確かに、重罪だ。
しかしそれだけの罪のために双極の力が解放されようとしていた・・・。

双極はそもそも隊長格が凶悪犯罪を起こした場合などの、非常に特殊な場合に使われる刑だ。
他と超越した力を持つ隊長格を確実に処刑するため、そして当然見せしめの意味を含めてこの刑はある。

それが、席にもついていない、しかも凶悪犯罪を起こしてもいない者に対して、今まさに解放されようとしていた。

明らかに平等且つ公平を逸した中央の決定だった。

『ここまでしなければいけないの?たったあれだけの罪のためにここまでしなければならないの?』
処刑台へと極囚の体が浮いていく様を見て、七緒は考えずにはおれなかった。

中央の決定は絶対だ。

しかしここまで常軌を逸した決定は、過去を紐解いても無い。
『これでいいの?本当にこれでいいの?』
考えてみても仕方が無いことは分かっている。
・・・しかし考えずにはおれなかった。

『間に会わなかったようだねえ。・・・浮竹。』

春水が浮竹と打ち合わせをする時間はほんの僅かだった。
「・・・やるんだろ?色男。」
「・・・ああ。」
「ボクはどうすればいい?」
「処刑場で待っていてくれ。・・・俺はこれから封印を解きにかかる。」
「・・・了解。」
これだけだ。

これだけで分かる。それ以上の言葉はこの二人には不要だ。
浮竹が来ることは信じているが・・・少し時間がかかりすぎたようだ。
『なんとか、助けてあげたかったんだけどねえ。』
浮竹は過去に部下を亡くしている。
その時の浮竹を知っているだけに、今回全面的に浮竹に協力するつもりでいた。
無論、お咎め無しにはいかないだろう。
今度は自分たちが双極に登る可能性さえある。
『ま、たとえそうなったとしても、それはそれでまた一興かねえ。』
浮竹は古くからの付き合いだ。
命を預けるに迷いは無い。

『・・くだらぬ。早くこんなくだらぬ処刑など終わってしまえばいい。』
砕蜂は無感動にそう思っていた。
中央の判定がどうであろうとも、興味は無い。
我々はそれに従うのみ。
周囲がざわつく理由が分からなかった。

『す、すげえ!!』
大前田は只只、双極の圧倒的な力に圧倒されていた。
極囚は気の毒だとは思う。
しかしながら、この力が自分に向かわなくてよかったと切に思っていた。

勇音は中央に明らかに不信感を持っていた。
罪に対しての判定というよりも、中央自体がルキアを殺そうとする意図があるのでは、と感じていた。
『こんなの、おかしい!!間違っている!!』
心の中では叫んでいる。
でも口には出せない。
もどかしさを押さえきれずにいた。

『どうか・・どうか安らかに・・。』
中央の判定は覆すことは出来ない。
それをよく知っている卯ノ花は、ルキアの魂の安定を祈っていた。
救いの手を差し伸べたい。
しかしその術は無い。
ないのであれば、見守るのみ。
穢れの無い魂が今日ここで消滅する。
卯ノ花は世の無常を感じていた。

一番隊の副隊長は平静だった。
なぜならば、彼の心は彼の上司である山本と同じところにあるからだ。
山本は全く動じていない。
ならば私も従うのみ。
彼に迷いは無い。

永きを生きてきた山本自身、双極の力を使った処刑は数えるくらいしかない。
罪状を考えれば、確かに今回は異例。
しかしながら、そこで我々が異を唱えることは許されぬ。
我々は秩序の番人である。
中央がそのように決定したからには、それを実行するのみ。
決定と実行。
これが為されてこそ、平穏はある。

山本は欺くのは好きではない。
しかし、今回山本は敢えて嘘をついた。
「お主の願い通り、処刑の終わったあかつきには、旅禍どもを無傷で帰らせてやろう。」
・・無論そんなことは出来ぬ。

だが少しでもこのまだ若い極囚が安らかに死に迎えるよう。
山本のせめてもの情けだった。


白哉の覚悟は決まっていた。
全ての業をこの背に背負う。
その覚悟だ。

緋真の願いに応えられぬ業。
妹を助けない業。
掟を護るという業。

・・・全てを見届ける。

一護と戦い、恋次との戦いを経て、その覚悟に僅かな小波が立ったことは否定はしない。
だがそれも、終わる。


そして矛の部分が最終形体に変化した。

極刑の最終執行者。

・・・そして誰も予想していなかった男が登場する。

・・その男は、オレンジ色の髪をした、何処の隊にも所属していない死神だった。

そして、その男は誰もが心の中で思っていた、今回の処刑の意義に鮮烈なる異を唱えてくる。

・・・その剣によって。

・・・その強さによって。

そして・・・・その覚悟によって・・・。



なんちゃって。





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