月を仰ぎ見て(日番谷冬獅郎)
「ハラ・・減ったな・・。」
屋根の下では、松本と旅禍の井上が夕飯を豪快にがっついているのがわかる。
・・・どうやら俺には喰えたもんじゃないような、メニューのようだが・・。
空には皮肉にも月だけは綺麗だ。
そういや・・・ずっと昔・・ほんのガキのころ、こうやって家の上で月を眺めたことがあったな・・。
いたずらを婆ちゃんに叱られて、すねた俺は飯も食わずに家の屋根に上って月を見ていた。
当然ハラは減っていた。
しかし、変に意地を張って下には降りなかった。
その時だ。
「シ〜ロ〜ちゃん!!一緒に食べよ?」
といって、雛森の奴が上がってきた。
見れば、でっかい握り飯が5個。
しかも、形はいびつで大きさもまちまちだ。
「へへ。私が作ったの。」
「道理できったねえ形してると思った。」
「もう!!初めて作ったんだからしょうがないでしょ?イヤならあげないから!!」
「誰もいらねえなんていってねえ。」
俺は迷わず一番大きな握り飯を取っていた。
具も何も入っていない、ただの塩の握り飯だ。
だが俺には旨かった。
一気に3つほど喰って4つ目に手を伸ばしかけた時、雛森が食っていない事に気が付いた。
見ればしゃがみこんだ膝の上に手を乗せて、ニコニコしながら俺を見ている。
「な、なんだよ。」
「美味しい?」
「まあまあだな。」
「もう〜〜!!こういうときにはお世辞でも美味しいって言ってよね〜。」
「桃は喰わねえのか?」
「うん。だって、シロちゃんに食べてもらうために作ったんだもの。」
そこで残りに手をつけた俺。
あっという間に喰い終わった俺を見ると、雛森はこういった。
「じゃ、帰ろうか。」
「帰るつったってここ家だろうが。」
「ううん。違うよ?帰るっていうのはね、家族の人と一緒にいることなんだよ?だから帰ろ?」
おそらく婆ちゃんから事情を聞いたのだろう。
それで俺を連れ戻しに来たに違いない。
自分だってガキの癖に・・。
だが雛森はこういう奴だった。
そのときも当然のように俺の手を引いていた。
その雛森はまだ意識が戻らない。
無性にあの不恰好な握り飯が懐かしくなっていた。
『だが・・・。』
ホロウの霊圧を感じる。
『俺たちはもうあの頃には戻れない。』
強力な霊圧だ。
『・・・それならば。』
しかも複数。ヴァストローテ級だ。
『前に突き進むのみ。』
戦時体勢に入る。
全力でいく。
なぜなら・・・あいつらの後ろには・・・藍染がいる!!
『ただ・・・前へ。』
なんちゃって。