月を見上げし獣(恋次と白哉)

嵐のように去って行った一護。

全く・・・あいつは何でもかんでもひっくり返して行きやがって。

「まったく・・あやつは。落ち着きの欠片も無い男だな。」
去っていった一護の方角を見やり、呆れたような声を出す朽木隊長。

「全くです。これじゃあ、おちおち養生も出来やしねえ。」
答える俺。
・・・・でもよかった。もういつもの朽木隊長だ。

『何故・・・生きておられるのだと・・・思っているのだろうな。』

こんなセリフを・・・あんたから聞くとは思わなかったから。

「・・・もうよい、恋次。
隊長格が何時までも隊を留守にする訳にも行くまい。
隊に戻り、私の代理として指揮を取れ。よいな。」
「・・分かりました。失礼致します。」

俺が病室を出る時も、隊長は窓から外を眺めたままだった。

隊に戻ると、朽木隊長が言ったように、仕事の山が待ち受けていた。
朽木隊長本人の承諾が必要なものは別として、そのほかの仕事を仕上げていく。
書類仕事は嫌いだが、一辺エンジンがかかると俺は仕事が速い。
片端から片していった。

一段落が着き、帰宅するべく隊を出る。
もう夜だ。
天には三日月が冴え冴えと輝いていた。

『何故・・・生きておられるのだと・・・思っているのだろうな。』

昼に聞いたあの言葉が頭をよぎる。
・・・俺はあの時、何と答えようとしていたのだろうか。

あの人はいつもはるかな高みから俺を見下ろしていた。
絶大な霊力。そして能力。自身への絶対の自信。
感情を表に現すことの無い、完璧な強さを持っていた。

俺が追いつきたいと思い、努力をし続けるべき遥かなる目標。


俺に向けた背中がいつもよりも細く見えたのは気のせいだったのだろうか。

あの人を破ったのは一護だ。
ルキアを殺そうとするあの人の目を冷めさせてくれたのには心から感謝してる。
あの人自身、苦しんでいたはずだ。
今ではあの人も、明らかに一護を見る眼が変わっていた。
最初は只の人間のガキだったのが、今では自分と対等な男として、一護のヤロウを認めてやがる。
一護の言葉なら・・・今のあの人は恐らく耳を貸すだろう。

・・・だが、俺の言葉はあの人にはまだ通じない。

あの人は・・・自分と対等と認めた男の言葉しか聞かない人だから・・・。

見上げた月が綺麗だった。
何も語らず、天に冴え冴えと輝き続ける存在。

何故か月はあの人を想像させる。

・・そうか。
あの人は、高みにいてこそ、あの人なのか。

・・・月が地に降りてちゃいけねえよな。

あの人を超えたい。
だが、ただ超えるだけじゃダメだ。
遥か高みにいるあの人を超えてこそ、価値があるんだ。

降りてくんなよ?朽木隊長。
あんたはその高みから俺を見下ろしてりゃいいんだ。

いつか俺があんたの所まで追いついて・・・そして必ず超えてやる。


だから・・・降りてこないでくれ。


あんたは俺の目標なんだ。


目標は遥か高いところから、俺を見下ろしていりゃあいいんだよ。



・・・それが、俺の知っている・・・「朽木白哉」って男だからよ。





なんちゃって。

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